銭湯画家の盗作騒動で底辺デザイナーが感じたこと

東京藝術大学の大学院生でもあり、モデルでもあり、日本に3人しかいない銭湯画家の弟子でもある勝海麻衣氏。

去年の盗作疑惑で騒動となり謝罪したが、活動再開を発表して再び話題になっている。

あの騒動では、「東京オリンピックロゴ盗作疑惑の佐野研二郎氏といいデザイナーってすぐパクるよね、なんで?」という疑問を憤りと共に抱いた人も多いのではないだろうか。

なんでデザイナーはパクるのか

彼女が活動再開を成功させるにはどうすべきなのか。

元・底辺デザイナーなりにそこらへんを推し量ってみた。

勝海麻衣氏の盗作疑惑の顛末

去年の盗作騒動、顛末としては以下の通り。

勝海氏は武蔵野美術大学の造形学部を卒業後、東京藝術大学の大学院に進学しながらモデルとしても活躍していた。

銭湯画家になりたいという夢を叶えるため、日本で3人しかいないペンキ絵師の一人、丸山清人氏に弟子入り。

美しいルックスと銭湯画家という珍しい活動方法で注目を集める。

2019年3月24日、大正製薬「RAIZIN」のイベントでライブペインティングを行うが、その際描いた虎の絵が既存の作品のトレースだと判明。

それをきっかけに、卒業制作の作品や個展で発表した作品にも次々盗作疑惑が持ち上がって騒動になった。

2019年4月26日に本人と所属事務所が謝罪。

どうして盗作してしまったのだろうか

勝海氏は「絵描き」ではなく「デザイナー」

勝海氏の経歴で目を引くのが「東京藝術大学の大学院在学中」というところではないだろうか。

「えっ東京藝術大学ってなんかすっごい絵が上手い人が行く大学でしょ!?」と感じると思う。

しかし卒業したのは武蔵野美術大学造形学部の空間演出デザイン学科。ここは実技試験がない学部で、入試は学科試験だけ。

実技をゴリゴリやって東京藝術大学の学部に食い込んでくるような人たちとはタイプが違う。

つまり勝海氏は「デザイナー」であり「絵描き」ではなかった。

なのに「絵描き」みたいなことをした(させられた?)ために無理が生じたのだと思う。

デザイナーは絵描きになれない

ご存知の通り、「絵描き」と「デザイナー」は全く別物。

よく知られている言葉で、「アートは自己表現で、デザインは問題解決」というのがある。

「絵描き」はゼロからイチを生み出す人々、「デザイナー」は既存のものを効果的に配置することで商品価値を上げていく人々。

どちらも重要で、優劣はない。

しかしデザイナーは絵描きにはなれないし、絵描きもデザイナーになれない。

両方やる人ももちろんいるけど、たいていはどちらかに比重をかけていて、「デザインも絵もどっちも弩級の才能!」なんて人はほんの一握りだ。

勝海氏は経歴からして「デザイナー」なのに、ライブペインティングや個展などで「絵描き」をやらなければならなかった。

絵を描けない人が決められた期間でそれっぽい絵を描くためには、手っ取り早くどこからかアイデアを盗んでくるしかない。

「デザイナーなんで絵は描けません」とは言えなかった

勝海氏は「現役藝大生モデルにして銭湯画家の弟子」という肩書きを背負っている以上、ライブペインティングで「すごい絵」「熱量のある絵」を描く必要があった。

「美大出てればすっごく絵が上手いんでしょ? ましてや現役藝大生だもんね?」みたいな世間のイメージもある。

ここはなんとしても格好をつけなければならない。

「だから私はデザイン学科だっつーの! たいそうな絵は描けません、ごめんなさい!」なんて言えなかったと思う。(もしそう言ったらファンになっちゃってたよ。)

「描けない」と言えない。

クリエイターなら誰でも落ちるおそれのある落とし穴。

彼女の場合タレントという側面もあるのでスポンサーや事務所の意向もあり、よけい複雑だったのだろう。

私だって底辺デザイナーだけど分かる

私も某美大のデザイン系学科を受験している。

そこは英語と国語と小論文だけで実技がないので、私でも合格できたのだ。

でも「自分は絵が描けないのに、美大でやっていけるのか」とびびってしまい(あと学費にもびびった)、結局ふつうの大学に進学した。(学費も三分の一ですんだ)

私はお金もなかったし、才能もなかったし、くらいつく根性も、おまけに人並み以上のルックスもなかったから、ただの底辺デザイナーとして無事に生きてこれた。

もし自分があのままデザイン学科に進学してさあ、ルックスの良さをもてはやされてライブペインティングなんかやらされたら……?

考えるだけでホラーだ。気が狂ってしまう。

その場をしのぐために、それこそパクリでもトレースでもなんでもしちゃっただろう。

それは同じデザイン畑の「描けない」人間としてよく分かるのだ。

「描けない」と言える勇気を常に持つこと

盗作なんかしたら、経歴も信頼も、嘘じゃなく本当に自分ががんばってきたことまで全部水の泡になってしまう。

それだけじゃなく、これから自分で生み出すもの全てが「それも盗作なんじゃない?」という目で見られてしまう。

自分は底辺デザイナーとして、身の丈以上のオファーが来たら「それは自分にはできない」という勇気を持つことを心がけていた。

あと、恥を恐れず、今の無様な実力をありのまま晒す勇気。

よく簡単に「新しいことや無理っぽいことでも挑戦すべき」と言うけど、どうしても無理なことってあるよ。

マラソン選手が短距離の選手にはなれないみたいなもんで、「絵描き」と「デザイナー」では使う筋肉が違う。

私なんかが言えたことでもないけど、勝海氏には、これからはぜひ、自分のできることを見定めて取り組んでいってほしいなと思う。

もうこれ以上かく恥もないんだし、これからはできないことは「できない」と言えるんじゃないか。

事務所などのまわりの人たちも、彼女の力量を見定めた上で活躍の場をどんどん提供してあげてほしい。

一度こういうことがあると汚名を濯ぐのに時間がかかってしまうけど、決してやり直しができない世界であってはいけない。

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