この絵描きの絵が好みだから、この人の絵で○○が見たい。リクエストしたら描いてくれないかな?
すごくいいアイデア思いついたから、この絵描きさんにプロットを渡して描いてもらおう!
と思っている人向け、【自分自身の経験から、絵描きに対するリクエストに関してはよく考えるようにしています】という記事。
※ただし「リクエスト募集中」とか「何かネタをくれ〜」と言っている人にはどんどん送りたい派です。
最近、ゲームクリエイターの方の「ユーザーの方からアイデアや設定を提案されることがある。しかしそれはトラブルになりかねないし、困ってしまうのです」といった問題提起を見かけ、「あ、それ自分も経験があるなあ」と思い出したことがあった。
個人サイト時代に自分は二次創作でマンガを描いていて、ROMの方から「私のアイデアをマンガにしてください」とプロットを送ってこられたことがあり、少し面倒なことになったのだった。
「アイデアの提案は絶対にすべきではない!」かどうかは分からない。でも軽い気持ちで提案をすることで意図せずクリエイターさんを困らせてしまうケースもあるよな……と改めて思ったので、クリエイターとユーザーの距離感について今一度自分の考えを整理してみます。
「迷惑な提案」と「助かる提案」はどう違うのだろう
もう一度書いておくと、「リクエスト募集中」とか「何かネタをくれ〜」と言っている人にはどんどん送ってあげたい。
自分自身も「いつか○○(キャラ名)のオフの日の感じを描いてみてくれませんか?」みたいな感じでお題をいただくことは嬉しかったりする。また、このブログに対してごくまれに「私はこういう悩みがあるのですが、あなたならどう考えますか?」みたいにリクエストをいただくことがあり、それもたいへん嬉しいです。
でも、過去に二次創作でマンガを書いていたとき、「あなたの作風が好きなので、ぜひ私のアイデアを形にしてください。こんな設定どうですか?」とプロットが送られてきたときは困ったし、断った。最終的にはジャンル自体を去ることになった。
どちらも提案、リクエストであるのは同じなのに、「迷惑な提案」と「助かる提案」はどう違うのか。なぜあのとき自分はイヤな気持ちになったのか。
「助かる提案」は私の意見を聞き出そうとしてくれている
※これはあくまでも自分の場合です。「どんなんであろうがリクエストや提案は一切要らないからやめてくれ」という人もいると思います。
自分にとって「助かる提案」、「嬉しいリクエスト」は、こちらの発想や意見を求めてくれるようなもの、引き出してくれるようなもの。
私独自の発想を期待して問いを投げかけてくれるような提案には、つい大喜利のような感覚で楽しんで乗っかりたくなってしまう。また「こういう悩みがあるのだけど、あなたならどう考えますか?」と私独自の答えを求めてくれる問いかけをいただくと、自分の中でしっかり考えて記事を書いてみたくなる。
二次創作でも同じで、ジャンルの友人から「今流行りのこういうシチュエーションってあるじゃん? あなたが描いたらどういう切り口で来るんだろうってふと思ったわ」とか言われると「今まで考えたことなかったけど考えて描いてみたいな!」と乗っかりたくなったりする。もちろんある程度の関係性が基本にあってのことが多いけど。
「迷惑な提案」は私のことを便利にコントロールしようとしている
自分が「イヤだな」と感じてしまった提案について思い出してみる。多少のフェイクを入れています。
プロットを送ってきたのはジャンルの読み手の方で、最初の頃は普通に感想メール(まだSNSがない時代、だいぶ以前の話です)を送ってくれていたしこちらも返信をしていた。
そのうち「私も小説やマンガは描けるんだけど、仕事が忙しくて創作活動をする暇はないので、あなたに企画面で協力することでジャンルの活性化に貢献したい。仕事でも企画作りには慣れているし企画力には自信がある。あなたの作風が好きだから、私のプロットを形にしてほしい。」と言ってきた。
「ジャンルの活性化に貢献」とか「あなたの作風が好きだから」とか「企画面で協力」とか、聞こえのいい言葉でくるみつつ、結局はこちらを便利にコントロールしようとしてきているな、と感じた。そうではないのかもしれないけど私はそう感じた。自由に自分の描きたいことだけを描いている私としては、それはイヤだなと感じたので断った。
しかし、プロットは予告なくメール本文にそのまま書かれており「私は見ていない」という証明ができない状態で、というか見える部分は見てしまったのだけど、そのことが後の創作活動に支障が出たといえば出た。
まず、「アイデアの提案」を見せられてしまった時点で、そのアイデアは描けなくなってしまった。もしすでに描いていたとしても、アイデアがかぶっていたら没にした。心が狭いのかもしれないけど「あ、これ私のネタだー、使ってくれてる」と思われるのさえイヤだった。
正直送られてきたプロットとやらは目新しいものではなく、二次創作あるあると言っていいくらいのド定番ネタばかりで、よけるのに骨が折れた。
なんとかアイデアがかぶらないよう、よけて作品を描いていたのだけど、
「あのセリフは私のプロットのあれを参考にしてくれてますよね! 作品を一緒に作り上げることができて嬉しいです!」
「あの設定は私のプロットのですよね! でも、私のプロットを使うなら使うって一言くれると嬉しいんですけど」
とメールが来るようになった。この時点で「あーこの人なんてことしてくれたんだ……」という気持ちになっていた。
「それは私のプロットですよね」と言われても、二次創作ではあるある王道な設定やシチュエーションばかり。(記憶喪失になったキャラが最初は冷たく振る舞うが思い出の品で記憶を取り戻しハッピーエンド、みたいな)今まで二次創作界で何万回とこすられてきたようなものを「それは私のプロットですよね!」と言われても……。
何を描いても「それの半分は私の手柄ですよね? 私にもっと感謝してほしいし、評価してほしいです」と言われているようで、私は何かを作ろうという気持ちを一切失ってしまった。
私の創作は完全に、別の意味でも相手のコントロール下に落ちてしまったことになる。
結局、ジャンルごとイヤになってやめてしまった。
幸いだったのが、私がただのへっぽこ弱小絵描きだったということと、相手に悪気が(たぶん)なかったこと。
もし私がジャンルの大手とかプロで創作をしているような立場の人間だったり、相手がよこしまな考えの人間だったりしたら、「盗用だ」と言いがかりをつけられたり、「あれは自分のアイデアだ」とネットで吹聴されたり、あるいはアイデア料を請求されるようなトラブルになっていたりと、もっと大ごとになる可能性もあった。
自分もいろいろと甘かったな、と今となっては思っているし、相手も純粋に自己顕示欲が強いだけであって(たぶん)こちらを陥れるようなことをしたわけではないし、総合的に考えるといい経験になった。
アイデアの提案やリクエストは、求められない限りしない
「迷惑な提案」と「助かる提案」の境目ってけっこうあいまいで、はっきりこうとは言えないし、人によっても違うだろうなと思う。
自分が困った経験から、アイデアの提案やリクエストは、相手から求められているとき以外はしないようになった。
- アイデアを提案してしまったことで、進行中の作品を没にさせてしまうかもしれない
- 自分が思いつくようなことは、とっくに相手は思いついてる
- (そもそも、思いついたら自分で描くし……)
特に「自分が思いつくようなことは、他の人もとっくに思いついてる」というのは、創作を長く続ければ続けるほど身にしみて分かってくる。
自分のアイデアは自分で形にするしかない
「いやいや、これは本当に誰も思いついていない最高のアイデアなんだ! こんな素晴らしいものを埋もれさせるなんてジャンルの損失だ!」と思うのならば、自分で形にすれば良いのだ。
「自分で描けばいい」という主張に対して、「自分じゃ絵を描けないから頼んでるんだ。描ける人が描いてくれてたっていいだろう」という反論がセットになりがち。
自分がバンドをやっていた頃、「当方vo.希望。○○のコピーバンドやります。G、Bass、Dr募集中」という、技術者を集めて自分は美味しいとこだけ吸おう的なメンバー募集がすごく多かった。「楽器はできないけどバンドはやりたい。楽器はできる人がやってくれればいいじゃん!」みたいなボーカリスト(をやりたい人)のもとには、もちろんメンバーは集まらない。
「私のプロットをマンガにしてよ」と自分が言われたとき、それに似たものを感じてとっさに「イヤだな」と思ってしまったのかもしれない。そもそも私は自分の中のものを形にしたくて絵を描いているので、他人からの「原作」は必要としていないというのもある。
今はSNSで気軽に他のクリエイターさんと交流ができてしまう時代であり、有名な方にも簡単に声をかけることができてしまう。「もしかしたら自分も、知らないうちに迷惑をかけるようなことしちゃってないよな……?」と不安にもなってきた。
自分自身が困った経験から、逆に自分が他のクリエイターさんに不利益を及ぼさないようにも気をつけていきたいなと改めて思う。
もし「どうしても自分のアイデアを形にしてほしい」という場合、お金を出して描いてもらうということもできます。
考えるきっかけをくださった、ゲームクリエイターさんの記事です。言いにくいことを、言葉を選んで書かれているなあと感じました。