「絵を描くならやっぱりデジタルの方が有利なのかな?私はアナログで描きたいんだけど、不利なの?」
「デジタルとアナログだとどっちが上手く見える?」
という人向け【アナログイラストとデジタルイラスト、それぞれのメリットとデメリットについて】の記事。
結論から言うと、アナログとデジタルどちらが有利だとかどちらが上手く見えるだとかって、ほとんど意味がない気がしている。
上手い人はアナログだろうがデジタルだろうが上手い。
そうでない人はアナログだろうがデジタルだろうがそれなり。
その厳しい現実は変わらない。切ないけれど。というのが自分の実感だ。
「自分はアナログ絵が好きだからずっと紙と鉛筆で描きたいんだけど、そろそろデジタルで描かないとフォロワーさんに見向きされなくなっちゃうかな……」とか「自分の絵が下手なのはアナログだからでは!? デジタルで描けば一瞬で神絵師になれたりするのでは!?」みたいな焦りが理由ならば、無理にデジタル移行する必要はないのかなと思う。
逆に「デジタルで描いてると絵が下手になるって言うから、面倒だけどアナログでも描いた方がいいのかな……」と無理にアナログに戻る必要もないのではと。
でもデジタルとアナログそれぞれいいところと不便なところはあり、どちらがより自分に合うか、どちらをメインにするか、使い分けるならどうするか、というのは考えてみてもいいのかも。
アナログイラストのいいところとたいへんなところ
アナログイラストというのは、紙やキャンバスに鉛筆や絵の具などの画材を使って描くもの。
実体を生み出し実体が残るもの。描いていて手が汚れるもの。
アナログイラストのいいところ
- 電源不要
- 目が疲れにくい(眩しくない)
- デジタルにはない味や価値がある(と感じる人もいる)
いつでもどこでも電源不要で描ける
電源不要でいつでも描ける、これは意外と便利なこと。
「締め切りまぎわにPCや周辺機器の調子が悪くなって新刊落とした」とか、「絵を描きたいのに停電になって何もできない」なんてこともない。
Wi-Fiも電源もないところでも紙と鉛筆さえあれば絵が描けるし、「絵の練習しようと思ってたのに充電できてなくてあ〜あ」なんてこともない。
目が疲れにくい
また、紙相手だと目が疲れにくい。
自分はデジタルで描くようになって「目が疲れるな」と感じることが増えた。年齢のせいもあるので言い切れないけど、デジタルで描くと紙より眩しいことは間違いない。トレス台などを使うとアナログでも眩しいけど。
液晶タブレットを使っている人などは特に、近くで眩しい画面を見続けることになる。
「アナログにしかない味や価値がある」と感じる人もいる
「アナログにしかない味がある」ということも言われる。これは人の感じ方なので、人それぞれとしか言えない。
今はデジタルでもかなりアナログで描いたっぽい雰囲気が出せるので、デジタルで描いたものをプリントしたものとアナログで描いたもの、ぱっと見どっちか分からないこともある。
ただ、紙の凹凸に引っかかってできたこすれやにじみなど、デジタルでは狙ってできない、言語化できない「味」「温かみ」「空気感」、「絵描きが実際この紙に触っていた」みたいな価値はあるのかもしれない。
自分は仕事で似顔絵を描いていたことがあるけど、
「デジタルだと温かみがないから自筆で描いて欲しい」
「友人へのプレゼントだから手で描いて欲しい。PCで描いた絵では失礼だから……」
というような要望をいただくことがあった。老若男女関係なく、こう感じている方はけっこういらっしゃる。「履歴書は手書きじゃないとダメ」という風潮もいまだに根強いようだから、こんなふうに考える人がいても不思議ではない。
「デジタルでも心を込めて描いてるし、手で描いてるし、自筆なんだけどな……」とはなるけど、それだけアナログを尊重する人もいる、ということだと思う。
アナログイラストの不便なところ
- 写真に撮ってSNSなどに投稿すると汚く見えやすい
- 請けられる仕事の幅が狭い
作品としてSNSに投稿すると汚く見えやすい
スケッチブックやクロッキー帳に描くだけなら問題ないけど、スマホなりで撮ってそれをSNSに投稿する場合は影が入ったり角度が正面ではなかったりといろいろノイズがあり、どうしても汚く見えやすい。その点で、デジタル絵に挟まれると見劣りすることもあるかもしれない。
アナログイラストを投稿する際なるべくきれいに見せるには、
- 影を入れない
- 画面の中で明度差を作らない
- ゴミ(絵に関係ない汚れ)を取り除く
- 白く飛ばしすぎない(タッチやニュアンスも飛んでしまう)
- 真上から撮る(斜めから撮るとイラストが歪み、視覚的にストレスになる)
そこそこコツやテクニック、撮り慣れることが必要になる。
スマホのカメラ機能ではなく「紙の書類をデジタル化するためのカメラアプリ」を使うという手もある。たとえば『CamScanner』というアプリだと上に挙げたようなことが自動でできるので、アナログイラストをきれいに撮れる。
※とはいえアナログ書類をデジタル化するアプリなので、クリアに撮れる分、筆感や質感は飛んで若干のっぺりした感じにはなる気がします。アナログで描いた良さは薄れるかもしれない。パキッとした絵柄の人には向いていそう。
仕事を請けるのに不利になる
「アナログイラストしか描けない、描かない」という場合、どうしても受けられる仕事の範囲が制限される。よっぽどの大御所イラストレーターのような人は別として。
最近ネットで請け負うような仕事は、ほとんどデジタルイラストが求められる。ブログ用イラストやYouTube用の広告漫画、お店や企業のロゴ作成、Vtuberのキャラデザなどなど、データが加工されることが前提の仕事の場合、デジタルでないと話にならない。
逆に、アナログが喜ばれるイラストの仕事というのもある。上にも描いたけど結婚式のウェルカムボードとかプレゼント用の似顔絵の場合「温かさ」「手作り感」が大きな付加価値になるので、「絶対にアナログで描いてくれ」というお客さんも世代に関係なくいらっしゃる。
しかし、アナログオンリーであると仕事の間口が狭くなることは否めない。
デジタルイラストのいいところとたいへんなところ
デジタルイラストとは、PC、タブレット型端末、スマホなどでソフトやアプリを使って描くもの。
昔はマウスで描く人もいて、自分も一時期やっていたけど肩こりが尋常ではなかった。それでも「デジタルで絵が描ける!」という興奮だけで肩を爆発させながら夜遅くまで描いていた。
今はスマホに指で描く人もいるけど、たいていはApple Pencilなどのペン型の入力デバイスを使ったり、グラフィックスタブレット(いわゆるペンタブレット)をPCに接続して使ったりする。
マウスとペンタブレットと指といろいろ過渡期を通ってきた自分は、今はApple Pencil。(iPad Pro10.5を使っているので第一世代)
(iPadシリーズによっては第二世代のApple Pencilが対応していることもあります)
マウスもペンタブも指もそれなりに使い慣れればなんとかなっていたけど、Apple Pencilに出会ったとき、ついに過渡期が終わったなあという感覚を抱いた。これから多少もっと便利になることはあったとしても、たぶんしばらくはここが最終形だなという気がしている。
デジタルイラストのいいところ
- 紙が残らない
- 保管が容易
- 目が疲れにくい(拡大して描けるので)
- 機能が多彩で表現が広がる
紙がなくても描けて、紙ゴミが残らない
たくさん描く人、長年描いている人は、描いたものの処分に困ったことがあると思う。
全部取っておくわけにはいかないし、処分するのも恥ずかしいし。スケッチブックやクロッキー帳など硬い紙の表紙や金物がついていると分解しようにも骨が折れる。
デジタルなら紙が残らないので処分にも困らないし、ヒラッと落ちた一枚がうっかり誰かに見つかってこっぱずかしい思いをすることもない。
私にとって、デジタルにしたことでこれがいちばん良かったことだった。
紙に描けば電源不要で自然に優しいが、デジタルで描けば紙不要で自然に優しい。
データの保管が簡単
描いたものを取っておく人の場合、アナログだと保管場所を取ったり色が褪せたり虫が湧いたりということがある。また紙というのは数枚なら軽いし薄いが、束になると冗談のように重く分厚くなる。
デジタルならそういった煩わしさが一切ない。大切なデータはストレージを複数使ってきちんとバックアップを取っておけば、取り返しのつかないこともそうそう起こらない。
拡大して描けるので、細かいところが見やすい
デジタルだとどうしても眩しさで目が疲れやすいというのはあるんだけど、拡大して描けるので細かいところが見やすくて目が疲れにくいという点もある。
細かいところを集中して見るのは疲れるし、疲れてくるとだんだんピントが合いにくくなってくる。自分も若くなくなってきたのでそれが顕著になってきた。
自分はアナログで描いているときも紙の雑誌や新聞を読んでいるときも、つい紙をピンチアウトしようとしてしまう。
ソフトのいろいろな機能を使うことができ、表現が広がる
デジタルで描く場合、優れた機能のあるソフトがたくさんある。最近だとクリスタ(CLIP STUDIO PAINT)。
自分はマンガを描くのでとにかく効率が良くなった。コマ割り、効果線、フキダシ、マスク、トーンなど、今まで絵を描く10倍以上の時間を取られていたような作業を一瞬で終わらせてくれる。
機能が多すぎて説明に一生かかるけど、他にもパースや3Dデッサン人形など作画のときの機能、グロー効果などの仕上げに使う機能などなどマンガではなくイラストを描く人にも便利なものがたくさんある。
使っていくうちに「こういうことってできないのかな?」と感じたらググってみればたいていできるし、有名なソフトだから使い方の書籍もたくさん出ている。
▽自分が持っているのは『CLIP STUDIO PAINTの「良ワザ」事典』
▽マンガを描くので『CLIP STUDIO PAINT PRO/EX プロに学ぶマンガ描画テクニック』
普通の手描き技術ではできないような効果を付与できるので表現も広がり、上手く使えば作品の質も高まる。描いていてワクワクするしモチベーションにもつながる。
CLIP STUDIO PAINTは無料体験版アリ。(iPad版なら最大3ヶ月無料)
ペイントソフト CLIP STUDIO PAINT 無料体験版のダウンロード
デジタルイラストの不便なところ
- 楽を覚えてしまう
- 自分の絵が上手く見えてしまう
- 古いファイルが開けなくなることも
楽を覚えてしまいがち
クリスタもそうなんだけど、便利な機能が多いので楽を覚えてしまうというのはあるかもしれない。
自分の場合だけど、デジタルイラストを描くようになってから紙にペンで一発描きができなくなった。デジタルにはUndoがあるので一本の線を何度も描き直せるけど、アナログは一発で決めなければならない。そのために使う集中力はだいぶ薄れたなと感じる。
また、デジタルは反転して簡単に歪みをチェック、歪みがあれば移動ツールでちょちょいと直す……ということができる。アナログだと一から描き直しになってしまうので、そのために使うような根性はたぶんちょっと、自分にはもう無いな……という気がする。
ただ、そこで使わなくなった集中力や根性は別のところで使っているので、トータルで見れば決して作業が楽になったわけではなく。「楽を覚える」というよりは「楽をする箇所が変わる」と言ったほうが正確かもしれない。
何か困ることがあるとしたら、今後何かでどうしてもアナログで一発描きしなきゃいけないっていうときには苦労するかもしれない。あまりそういう機会もないだろうけど。
自分の絵が上手い気がしてしまう
自分はこれが最大の注意点なのかもと思っているのだけど、デジタルで描くと自分の絵が上手いと錯覚して見えてしまう、というのがある。
クリスタにはそれを使って描くだけで何割増しかで上手く見えるくらいに絶妙なイリヌキのペンツールがあったりして、「おおっ、いい感じ!」になる。それがワクワクやモチベーションにつながるのはいいのだけど、自分の絵のアラが見えなくなる。こともある。
アラが見えないために成長しにくいのと、のちのち自分の絵のアラに気づいたときにこっぱずかしくなること、「上手く描けてるのに評価されない!」みたいな不満が募るかもしれない。
デジタルで描く場合、自分の絵に対して一層自覚的でいる必要があると思っている。
古いファイルが開けなくなることがある
自分は『CLIP STUDIO PAINT』の前身である『COMIC STUDIO』というソフトを使っていたのだけど、サポートが停止になったのをスルーしていたせいで、新しい環境でファイルを開けなくなったことがあった。(やろうと思えばできるけどめんどくさい)
IllustratorやPhotoshopなどもバージョン違いでファイルが使えないこともあるので、仕事などで使う場合はそのへんをきっちりしていないと困ることもあるかもしれない。
デジタルで面倒が減ることもあるし、こんなふうに別の面倒が発生することもあるということ。
アナログでもデジタルでも、結局は自力で描くしかない
おにぎりiMacが発売された頃の話。新しいPCを物色しに絵うまな友人たちと家電量販店に行ったことがあった。
展示されているPCやペンタブレットで試し描きをしていると、絵が上手い人はデジタルでも上手い、そうでもない人(私)はデジタルでもそれなり、ということがありありと感じられてしまった。
自分はもうデジタルで絵を描き始めていてそこそこソフトも使いこなせたので絵うまな友人に操作を教えていたのだけど、友人が「わー、ペンタブレットってこういうのなんだー! すごい、線が描ける! Photoshop? も機能がいろいろあって難しいね……」とおっかなびっくり描いている絵がすでめちゃくちゃ上手いのを目の当たりにした。
「アナログもデジタルもツールにすぎない。結局は人間の力なんだ……」という事実を噛み締めたできごとだった。
デジタルとアナログ、どちらが上手く見えるか
デジタルとアナログ、どちらが上手く見えるか?
デジタルは「小手先で一瞬上手く見せる」くらいはできるかもしれない。が、それだけであり、しかもごまかせるのは主に自分だけという恐ろしさ。
上手い人が描いた絵は上手い。その厳然たる事実があるだけ。
デジタルとアナログ、どちらが有利か
何において比べるのかで違ってくるけれど、請ける仕事のバリエーションや効率のよさという点で言えばデジタルが有利と言える。
しかし電源がない状態や目の疲れ方、「味」に関してはアナログの方が有利とも言える。
アナログの最大のいいところが「味」「雰囲気」「温かみ」って言ってしまうとなんとも心細い感じになるので、これが「いつまでも私はアナログで描いてていいんだろうか……デジタルの方が有利なのでは?」と焦ったり不安に感じてしまう理由なんだと思う。
無理にデジタルに移行する必要はない
けっこう「デジタルで描かなきゃなーとは思ってるんだけど……」とか「iPadは買ったんだけどデジタルはまだまだ苦手……練習したいけどなかなかおっくうで」みたいな人も多く見かける気がする。
けど、アナログイラストに特段のデメリットがあるわけじゃなし、仕事を請けたいとかではないなら無理にデジタルに移行しなくていいんじゃないかと思う。
自分が趣味の絵をデジタルで描いているのは単に「仕事でも使い慣れていて描きやすいから」「紙が残らないから」というだけの理由で、何かすごく素敵なメリットがアピールできるわけではない。正直、アナログで描いている上手い人の方が羨ましいまである。
でも表現の幅を広げるためにデジタルというツールを試してみたことは楽しかったし、「これは便利だ」と感じた要素もたくさんあった。第一に、大量の紙がなくなったのはとてもありがたかった。