「イラストをなぞって学べる練習ドリルって、本当に上手くなるのかな?」
「自分はめんどくさがりだし、練習ドリルとか続かなそう……」
と迷っている人向けに【イラストの練習ドリルはめんどくさがりの人ほど向いている・上達するかも。】という自分の経験を語ります。
おすすめのドリル式参考書籍も挙げています。
イラストの練習ドリルというと「なぞって描くとかごく初心者向けでしょ? ある程度描ける人には必要ない」みたいな印象があると思う。
私もそう考えていたんだけど、いざ実際にやってみたら、
「いや、これいいぞ……? 練習ドリルって初心者よりむしろ絵の練習に行き詰まった人を救うのでは……?」と感じたので、それについて書く。
例えばこんな人(私がこんな感じ。)には特に向いているんじゃないかと思いました。
- ある程度イラストの練習をしてきて、行き詰まってる
- どんな練習をすればいいか分からなくなってきた
- 練習はしたいけどめんどくさい
なぞって学ぶイラスト練習ドリルはめんどくさがりに向いてると思う。
自分は「めんどくさい」が口癖なくらいめんどくさがりで、腰が重いくせに飽きっぽく物事が続かないタイプ。
こんな自分が練習ドリルとか続くわけないわ! 絶対に! 保証する! と逆方向に自信満々でやってみたところ、なぜか淡々と続けられてしまった。
これは……めんどくさがりの人ほどドリル練習は向いているんじゃないか?
そもそも絵を描くことの何がめんどくさいかって"何を描こうかあれこれ考えて、段取りして、描き始めるまで"なんじゃないだろうか。私がそれだ。
初心者の頃は新鮮な気持ちでできるんだけど、初心者を抜けてくる頃にはそこらへんがめんどくさくなってくる。すると、絵の練習に行き詰まって伸び悩んでくる。
練習ドリルは、そこらへんの面倒を救ってくれるのです。
描くものは目の前にあるので、自分はとりあえず何も考えなくてもペンを持つだけで作業を開始することができる。作業を始めさえすれば脳のやる気スイッチこと扁桃体が刺激され、やる気がじわじわ出てきて真剣にやってしまう。
※どんなふうに身になるかは後述しています。ただし個人差があるのであまりあてにしないでください。
こんな感じの"めんどくさがりな人"に向いているかも
こんなタイプは練習ドリルに向いてるかも?(自分がこんな感じなので)
- 美術解剖学は学んだことがないし、学び方もわからないし、やりたくない
- 「これを描きたい!」というほど好きな漫画やアニメは特にない
- ふだん、線をじっくりていねいに描く習慣がない
- 作品を仕上げられず、描きかけ・やりかけで放置してしまう
- 学校の勉強はけっこう好きだった
ほとんどについて「え? 逆じゃない?」と思うかもしれないので、一つずつ補足をしていく。
美術解剖学もパースもめんどくさい、やりたくない人
イラストを練習するには美術解剖学なりパースなりある程度の理論が必要だけど「やらなきゃいけないんだろうけどよく分からないからやってない」ものってあると思う。
自分は一応美大を受験しているので一通りはやったのだけど、その後取り組んでは挫折し、取り組んでは挫折し、という感じでいまだに自信がない。イヤイヤやったので理屈が分かるほど理解もしていない。ヘタに一通りやっただけに、今更もう一度やりたくない。
じゃあもうめんどくさい理論はすっ飛ばして、それができてるプロの絵をなぞろうっと。
と思った次第。
真似っこ丸暗記→まず感覚で身につく→よく分かってないけどそれっぽく描けてるじゃん!
この感覚が味わえる。
すると、
→なんとなく理屈が分かってくる→いずれまたちゃんと解剖学もパースもやるよ……やるってば……。
みたいな感じで、少しだけ進歩。
「これ描きたい!」というほど好きなアニメも漫画もない人
また、私が「絵は描きたいけど、そこまで情熱傾けられるモチーフってないんだよな」みたいな時期だったのもある。
好きなジャンルはあるけど描きたいほど好きなキャラもいない、練習で中途半端に好きなキャラを描くのはめんどくさいし、気持ちがこもらないのでうまく描けないから逆効果。あれもダメこれもダメ。どれもやりたくない。
そういうときこそ何の思い入れもない絵柄のドリル練習は続けやすかった!
無駄な気力を消費せずに、フラットな気持ちで淡々と教材に向かうことができる。今どハマりしている何かがない人ほど好機です。
ふだん、じっくりていねいに線を描かない人
線を勢いで描き飛ばすと上手くなりにくい、というのはよく言われる。線に半分意識が入っていないから、仕上がりもそれ相応になってしまう。
自分も「線はていねいにゆっくりでしょ、5億回聞いたよ分かってるよ」と思うんだけど、ついつい乱れてしまう。
この"入りから抜きまで意識的に線を描く習慣"ってよっぽど自律して行わないと身につかないんだけど、なぞるタイプの練習ドリルならそれが自然にできてしまう。
そもそもなぞるという行為自体、ゆっくりと意識的に行わないとできないことだからだ。
普段の調子でぱっぱと描こうとすると意外と思うようになぞれなくて、自分がいかに普段雑に線を描き飛ばしているかが実感でき、いったん自己嫌悪に陥る。(大事)
まずは思うように線が引けなすぎて「キーー!!」ってなるのを楽しんでみてほしいです。こんなに思い通り線が引けないならそりゃ絵も上手くなるわけないわ、って腑に落ちて、謙虚になって、だんだん面白くなる。
やりかけ・描きかけで放置してしまう人
やりかけ・描きかけで放置してしまうっていうのは、もちろん「時間ないから打ち切った」とか「めんどくさくなって飽きた」というケースもあるだろうけど「どうにも絵に格好がつかないからどこが完成か分からない」んだと思う。
構図もパースも解剖学もめんどくさいからって何にも考えず気の向くままに描くと、どうにも格好つかない中途半端なイラストにしかならない。
とりあえず描きあげて、「表情はなんとなくまぐれでうまく描けたからボツにはしたくない」とか言って、なんかレイヤー足したり外したり、トリミング変えてみたり、いじくり回して結局迷子。
「うーん、なんか、なんかなあ……イマイチなんかどこか変というか、でもどこが変なのか分からないし、Twitterに上げていいもんかどうか……どうしようかな……」な未達成体験だけが積み重なる。
それが焦りや不安となって、「どうせ私は下手だよ、モヤモヤする。もう練習したくない」。
その点ドリルならプロの構図で作画だから、自分がパースやら構図やら解剖学やらを理解していなくてもなぞり終えさえすれば格好がつく。
「なんか変だけどどこが変だか分からない」という不安や焦りも生まれない。一つ一つに達成感をきちんと感じることができるので、気持ちがいい。
絵の練習で達成感を感じることって、そういえばなかなか無いよな……。
あと、なぞるドリルだと途中で中断して時間を置いても作業に戻りやすいのも良いです。
自力で絵を描いていると、いったん中断すると作業を再開するのにテンションを元の位置まで上げなければならなくて「あー続き描かなきゃ……でも……」って感じになる。(なりませんか?)
けど、なぞる作業にはさほどテンションが要らないのでスムーズに無理なく再開しやすい→やりかけになりにくい、と感じた。
学校の勉強はけっこう好きだった人
成績が良いとか悪いとかは別として、「自分で自主的にやることを探すのはめんどくさいけど、先生に出された課題は普通にこなしてたよ」「言われたことをコツコツやるのは得意かも」というタイプの人は、練習ドリルも苦にならないと思う。
自分もこのタイプ。
「絵が上手くなるにはどんな練習をすべきか? 毎日あれやってこれやって、自分にはあれが足りないからこれやって……」と自分で考えてしまうと、考えすぎてめんどくさくなって、実行に移さない。
だから"ああだこうだ言わずにとりあえず出されたものを素直にやってみる"というのは、私のような"受け身めんどくさがり人間"には性に合っていた。
ドリル練習が向いていない人
逆に、「こういう感じの人は、(今は)ドリル向いていないかも」というのも挙げておく。
- 今「これが大好き! これを描きたい!」というアニメや漫画がある人
- 絵柄の好き嫌いが強い人
- 人のやり方を習うのが苦手な人
私は小学生のときに高橋留美子先生が大好きで、自分でも漫画を描きたいと思うようになった。
で、親に頼み込んで漫画の通信教育を受けさせてもらったんだけど、そこでもなぞるタイプの教材があった。
でもその講師の絵柄は高橋留美子先生とは全然違うし、それが苦になって苦になって、本当にしんどくてさあ……モチベーションを保つことができず、最後の方は「こんな絵の人に習いたくない!」と憎しみが込み上げてくるくらいイヤになっちゃったんです。(意地でなんとか最後まで修了したけど、このときのしんどさは今でもはっきり覚えている。)
今大好きで描きたい絵柄がある人や、絵柄への好き嫌い・こだわりが激しい人だと練習ドリルは苦になるかも。(あと講師の方に申し訳ない)
あとは「人から指示されると意欲が削がれる」「そもそも今は誰かから学びたい気分じゃない」みたいな場合も逆効果になってしまいそう。
※小学生のときはそんな憎しみにさいなまれていた自分も、今は「イラスト練習ドリルってアリじゃん! 楽しい!」となっているので、誰かに素直に教わることができるかどうかってその人のタイミングにもよると思います。
おすすめのイラスト練習ドリル
練習ドリルの書籍自体それほど数は多くないけど、おすすめしたいのはこちら。
筆者が実際に使い方をプレゼンしている動画があるんだけど、書籍の内容を手厚く補足してくれているので書籍と合わせて動画も観ないと人によっては不十分かも。
理屈とかはまず置いておいて、プロの線の引き方を眺めるだけでも参考になる部分がある。
線を引くときの呼吸みたいなものを感じることができる。
「自分より上手い人の絵の描き方を追体験できる」という機会ってなかなか無い。
「プロは一本の線を引くのに、こんなふうにゆっくりていねいにするんだ……」とちょっと驚いたというか、今までの自分を反省した。観ていると自分でも「プロっぽい線」を描ける気がしてくる。
たぶん、本当に「なぞるだけで絵がうまくなる」というわけではなく、オビの「どんな美少女・美青年でもスラスラ描けるようになる」というのも、この一冊だけでそんなうまい話はない。
×「初心者でもこれをなぞるだけでどんな美少女もスラスラ描けるくらいうまくなる!!」
○「プロの描き方のコツを体験できて、自分の手クセに気付いたりできるかも」
この辺りを意識すると学ぶ部分が多いんじゃなかろうか。
「参考になる部分を自力で探す」という使い方をしてみる
最後に、自分が「身になった」と感じた点。
- 「この衣類のしわの入れ方、イマドキっぽく見えて好きだな!」と思ったのでそう描くようになった
- 線の入り抜きやスピード感。この感覚はこれからも意識していこう、忘れたら思い出そう。くらいの実感を持った
こう、言葉で書いちゃうと「それだけ!?」と思う人もいるかもしれないんだけど、これ、だいぶなことだと思う。自分的にはけっこうな収穫だったし、人によってはもっと別の何かが身につくかもしれない。(その人が実際にやってみないと分からない。)
そもそもこういうのって本来デッサン会とか講座を受けて何年もかけて教えてもらうようなものなので(何も身につかないことだってある)、書籍で1ヶ月でって得したなと感じた。
イラストの練習をしていて「これ以上何をやればいいか分からないし、何をやればいいか考えるのも決めるのもめんどくさいな!」と思考停止に陥ることってある。
そんなときこそ、目の前のことを淡々とこなせる練習ドリルって有用かも。
小学生のときってやたら計算ドリルとか漢字ドリルを課されたけど、あれは理にかなってたんだなあと思った。「勉強しろって言われても何をすればいいのか分からない」というときに与えられたアレはダテじゃなかったんだなと。
線をなぞるだけでも、とことん貪欲になればいくらでもエッセンスを搾り取れる。
そして、その気にならなければ何も得られないんだな、ということも強く感じました。
「私もめんどくさがりなんだよな……あー絵の練習何していいか分からない! けど何かしたい!」という人は、ぜひ。