「下書きではうまく描けたのに、ペン入れすると下手になる…」
「私の絵、下書きと線画でイメージが変わりすぎ。ペン入れするとこれじゃない感がすごい…」
という人向け【下書きの線をゆっくり・ていねいに・単線で描いてみることで、ペン入れのときにどの線を拾えばいいか分かりやすくなるかもしれません】という記事。
下書きのときはメリハリもあって立体感もあってすごくうまく描けたと思ったのに、ペン入れしたらスカスカだし、表情もなんだかマヌケに見えてしまう……。
自分も長らく「私は鉛筆でラフっぽい絵を描く方が得意なんだよね、ペン入れ・線画は苦手!」と思っていて、絵を描くといってもいつもスケッチブックにシャシャシャッと描いて、線画を仕上げたりせずラフのままにしていた時期がある。
あるとき絵描き(専門学校卒)の友人から「あー、それ、線がていねいに描けていないからだよ」とアドバイスをもらった。
「そんなことない、ていねいに描いてるつもりだし!」
とプライドの凝り固まった当時の自分は激しく反感を抱いてしまい、何か言い返したわけではないけど彼女とはそれっきりなんとなく疎遠になってしまった。当時の自分は美術系学歴コンプレックスもひどかったので、美術系カリキュラムを履修している彼女に対してよけい反発してしまったのかもしれない。
しかし10年ほど経った今「線をていねいに描くって、もしかしてこういうことだったんだ!」と分かってきた気がするので、アドバイスを素直に聞けなかった懺悔がてら記事にしています。
「下書きはうまく描けたのに、ペン入れしたら下手に見える…」の対策
ペン入れというのは"下書きの線のうち適切な線を拾い、すっきりとした線画に仕上げる"ということだと思う。
下書きの段階で線を雑にたくさん描くと適切な線を拾うことができないので、ペン入れの難易度が上がり、思ったような仕上がりになりにくい。
「下書きの線がていねいに描けていない」とは?
以前の私は一本の線を大切にせず、たくさんの線でシャッシャシャッシャとごまかしごまかし、雰囲気で、なんとなく、自分では上手いつもりになって、描いてしまっていた。
そのためペン入れが"下書きの正しい線を拾う"ではなく"ぶっとい線で描いた下書きを、細いペンでなんとなくなぞる"になってしまい、なんともチグハグでこれじゃない感あふれる仕上がりになっていた。
こんな感じで、下書きをしたときのイメージと、ペン入れしたあとのイメージがぜんぜん違ってしまう。
私の場合は似顔絵を描くのでズレが起こると似せて描きにくく、致命的。
ペン入れは「下書きをなぞる」のではなく「下書きの適切な線を拾う」
上の例は下書きを「雑に」「多線で」描いているために起こる。
なので下書きをするとき、自分はこんなことに気を付けている。
- ゆっくりていねいな線で
- なるべく単線で(複数書いたとしても重ねない)
- 下書きで仕上げずに位置決めをするつもりで
- ペン入れで使う線よりも細い線を使うといいかも
また、ペン入れをするときも、
- 下書きだけに頼らず、ちょっと描いては線画レイヤーを見て仕上がりを確認(イメージのズレがないか確認するため)
- (似顔絵など)資料がある場合は、資料を見ながらペン入れする
すると、下書きで思い描いたイメージと、ペン入れしたあとのイメージがかなり近い仕上がりになる。
自分の場合は似顔絵なのだけど、単線でゆっくり位置決めを行うことでイメージがずれにくく、似せて描きやすい。
線をていねいに描く練習
「いや私はゆっくりていねいに線を描いてるけど?」
「ゆっくりていねいにって具体的にどれくらいの早さ?」
と疑問に思う人もいるかもしれない。
上述の、疎遠になってしまった彼女がやっていた「ていねいに線を描く練習」の方法について書いておく。
紙と鉛筆を用意する
必要なものは紙と鉛筆、かシャープペンシル。
紙はコピー用紙でもクロッキー帳でも何でも良く、鉛筆は持ちやすいBとか2Bなど柔らかめのもの。
鉛筆の持ち方だけど、正しく持てればそれに越したことはない。一般的に「正しい持ち方」とされている持ち方が、いちばん力を入れやすくて描きやすいからだ。
が、「ちょっと変な持ち方なのにめちゃくちゃ字がうまい!」みたいな人は別に直さなくても構わない。その持ち方で思い通りに線を描けているということなので。
鉛筆を正しく持てず、かつ字が下手、という場合は、「その持ち方だと思った通りの線が描けていない」ということなので直してみてもよいかも。
紙に小さな正円をゆっくりたくさん描く
用意した鉛筆で、紙に丸をゆっくりと描いていく。
ポイントは勢いをつけないこと。
なるべく正円、きれいなまん丸を繰り返し描く。
このときの、"勢いをつけずにきれいな丸を描けるくらいのスピード感"が「ゆっくりていねい」。
※なので、人によって違うということです。
線の濃さや太さもなるべく均一を保ち、一つ一つの丸も揃えて整えて描いてみる。
これが意外と難しくて、円がいびつになったり不揃いになったりして、イライラしてくるかもしれない。
まっすぐな線をゆっくり描く
丸だけでなく、ゆっくりと丁寧に直線も描いていく。
自分の体感だけど、絵がうまい人は、フリーハンドでも丁寧に直線を描くことができる。
逆に、絵がうまくない人(私のように)はシャッシャッと勢いでごまかしたりして、均一な直線が描けていないことが多い気がする。
丸と直線の練習で得られるもの
この練習は別に丸と線をうまく描くための練習ではない。
「いかに思い通りに線が描けていないか」ということを自覚して、線を意識して描くため、スピード感を意識するためにやっている。
でも繰り返していれば確実にきれいな線が描けるようになる、つまり意識した通りの線を描けるようになる。そのときのスピード感も、身体的に覚えることができる。
絵を描くときも、この覚えたスピードで、ゆっくりとていねいに線を描く。
絵を描く前の「手ならし」としてもおすすめ
この練習は、絵を描く前に毎回ちょっとやってみるのも良いと思う。
丸と直線で自分のコンディションがわかる
絵をよく描く人は、日によって「なぜか今日は描いても描いてもうまくいかない!」というときがあるんじゃないだろうか。
腕を使う力仕事をした後なんかはもちろん、気持ちが昂っていたりしても線に出てしまう。
絵を描く前に丸と直線の練習をすることで、「あ、今日ダメな日だ」とコンディションを計ることができるのだ。
絵を描く前に分かれば無闇にイライラしなくても済むし、そんな日は丸と線だけ描いて終わりにしても良いし、「ダメな日なりに何か描くか」と描いても良いし、休んでも良い。
自分の描きたいイメージを寝かせる一呼吸にする
絵を描く前に丸と線のルーティンをすることで、気持ちを落ち着けることもできる。
「パッとイメージが浮かんでガッと描く」と、あまり満足いく出来にならないことが多いのではないだろうか。
いわゆる「勢いで描きたいとこだけ描いた」になってしまい、これでは上達もしにくい。
描く前に一呼吸おくことで、構図を練ったり、描けない部分の資料どうしようかと考える余裕が生まれ、結果として良いものが描ける。かもしれない。
ていねいな線を描くことの大切さ
雑な線ではなく、勢いのある線を描きたい
シャッシャっと勢いで線を描き飛ばして太線になってしまい、それを消しゴムで消して細く調整したりしても、もうそれは生きた線ではなくなってしまう。
絵やマンガを「勢いがある」なんて褒めることがあるのでつい誤解してしまうけど、線を雑にシャッシャッと描くのは、勢いとは違う。
人体なら皮膚や筋肉の張りを意識しながら、集中して一息で描ききるような線、例えばそれが「勢いのある線」だと思う。
最近「勢いがあるって、こういう線のことなのではないかな」と感じたのが、このクロッキーの参考書籍です。
雑な線は自分の目をごまかしてしまう
またシャッシャッとたくさんの線で下書きをすると、自分だけにはなんとなくうまく見えることがある。
でも線が多いことで目がごまかされているだけで、上達しているわけではない。ペン入れしたら変になってしまうのがその証拠だ。
昔の私もそうだったけど、勢いだけで「なんとなく自分にはうまく見える」下書き状態の絵ばかり描いていると、自分の弱点を直視できず、上達にはつながらない。
「絵は必ず完成させろ」とよく言われるのはこういう理由もあるのだろう。
さらにそれを「下書きだけどうまく描けた!」とSNSにアップして、いいねがつかずに落ち込んでしまう……。そんな負のループにハマっている人もいるんじゃないかと思う。
- ゆっくりていねいに下書きを描くようにする。
- 「ゆっくりていねい」のペースは丸を描く練習でつかめるかも。
- 下書きで終わらさず、ペン入れまでする。
あのとき私にアドバイスをくれた彼女、素直に聞かなくてごめんなさい。そしてありがとう。