「美人を描くのって難しい……全然似ないんだけど。そう言えば『美人を描くのは難しい』ってよく聞くけど、なぜ難しいんだろう?」
という人向け、【美人というのは理想的な位置に理想的なパーツがあるから特徴が薄く、またメイクや髪型で顔の印象も変わるため、似顔絵を描くには難しいのではないか】と考えてみた記事。
自分は一時期仕事で似顔絵を描いていたことがある。そのときもいわゆる美人の女性を描くのが苦手で、いつも四苦八苦してきた。同様に、いわゆるイケメンの男性を描くのも難しかったのだけど美人の女性を描くよりはまだなんとかなった。
なぜ「美人」を描くのは難しいのかを考えて、自分なりに描きかたを調整してみたときの覚え書き。
「美人」の似顔絵が難しいのはなぜか
自分自身は美人を描くのが苦手な理由としてシンプルに「目立つ特徴がないから」だと考えている。整ったパーツが黄金比に近い位置に並んでいるということは、つまり特徴が薄いということになる。
またいわゆる「美人」に限らず「女性全般を描くのが苦手」という似顔絵師はまわりに少なからずいた。「メイクで素顔が分かりにくいから難しい」という理由が多かったように思う。
確かに、素顔に近い女性の方が似せやすいというのは私も感じたことがある。
だからと言ってしっかりメイクしたら似せられないかというとそんなこともない。男性が女装しようが白塗りしようが似せることはできるように思う。
メイクで個性を消してしまうから
メイクによって本来の顔立ちを隠してしまうから描くのが難しい、というよりは最近のメイクは個性を消して「普通」「平均」「黄金比」に近づけようとするものが多いから、特徴が薄れて描くのが難しくなるのではないかと考えている。
「私は離れ目だから変。目がくっついて見えるようなメイクを工夫したい」とか「厚い唇が嫌いだからメイクでカバーしたい」とか、顔の個性を欠点だと思ってしまう傾向はどうしてもある。逆に「私はこの離れ目がかわいいでしょ、だからこの離れ目を活かしてメイクしてるんだ」とかは巷ではあまり聞かないように思う。(個性を売りにするインフルエンサーとかモデルとかだといそうだけど)
女子大生がみんな同じ感じのメイク、同じセミロングのゆるく巻いた髪型、同じくすみピンクのトレンチコートを着ている「量産型女子」という言葉がSNSで話題になったことがあったけど、全員をそれぞれきちんと似せて描くのは難しいように思う。
自ら進んで量産型になっていく理由としては、「よけいな個性を出したくない」「みんなと同じ顔で平均こそ美人」という考えが根底にあるということなのだろうか? これは自分には分からないので推測です。
ヘアスタイルで輪郭や眉を隠してしまうから
また、女性は男性より髪が長いことが多く、輪郭やおでこ、眉などが隠れてしまう。というか、「普通」「平均」「黄金比」ではないからと意図的に隠している人もいると思う。
特に眉は顔の印象を特徴づけるパーツであるので、そこを隠されてしまうと似顔絵描きにとっては似せにくい。
「没個性」を突き詰めたものがいわゆる「美人」になる?
どんな顔が美人なのかと言っても、時代や流行りによって変わる。90年代は細眉だったけど今は太めの平行眉、とか。極端なことを言うと平安時代は「引目鉤鼻、下ぶくれ」が美人の条件だったわけだし。
つまり「その時代の美人の条件と合致していて、なるべく雑味(個性)がないこと」がいわゆる美人だということになる。例外はあります。
似顔絵描きが描きたいその人のチャームポイントは「目と目の間が広い」「鼻が普通より大きい」などのアンバランスな部分であるのに、いわゆる美人にはそれが無い。あってもメイクで隠れてしまっている。
これが「美人を描くのは難しい」の核心のように思う。
美人を似せて描くために試したこと
「石原さとみさんを描きたいけど似せて描くのが難しい」という声を多く目にしたので、描いてみることにした。
まずは素顔の特徴を見きわめる
自分は写真ではなく映像を見ながらスケッチして特徴を探すことが多い。写真と違って映像は角度や表情が変わるので情報量が多いからだ。
普段は3、4回ほど描くとだいたい特徴がつかめるのだけど、石原さとみさんに関しては全くつかめなかった。ではまだあまりメイクをしていなかった10代の頃の顔立ちがヒントになるのではと素顔に近い高校生役の『ウォーターボーイズ2』を見たりもした。
この「昔の映像を見る」という方法は深田恭子さんを描くときにも使った。(『神様、もう少しだけ』を見たりして試行錯誤しつつ10回描いてみて10回目が右下です)
似なかった似顔絵にメイクをして似せていく
で、似なかった石原さとみさんを似せるために、ウォーターボーイズの頃のお顔にメイクをしていく。
石原さんって垂れ目なイメージがあったのだけど、実は素顔は言うほど垂れていなくて、むしろキリッとしているのをメイクで垂れさせている感じなのかなと気づいた。
眉毛も実はキリッとしているのを柔らかい色でふわっとさせ、かつ絶妙な前髪の厚さと長さで眉毛を隠していることが多い。いちばんの特徴として挙げられそうなぽってりした唇も、もメイクでほどよくスッキリ見せている。
ご本人も、テレビ番組で「自分の唇が嫌いだったけどリップを覚えて(メイクでカバーしている)」ということを言っていた。
塗っていて感じたのは「特別盛ったりしてなくて、すべてちょっとしたメイクなんだな」ということ。改造メイクみたいに顔のパーツを変えるわけでもなく、基本的にはきれいな色を乗せ、涙袋やほお、額をつやつやさせているだけなのだ、と塗っていて分かった。
素朴な顔立ちこそ美人になれる可能性を秘めているのかも
つまり美人を描くコツがあるとすれば、「素顔の骨格・造形を観察しつつ、その地顔をどんなメイクでどう整えているかを分析してみる」ということになる。
10代の頃の石原さとみさん、素顔も整っていたしオーラもあって目を惹いたけれど、特別目がぱっちりとか鼻が高いとかではなく、むしろ地味で素朴な部類だったと思う。
素朴な少女が、表情やスキンケア(またはスッキリさせるためのトレーニングやエステなども続けてきたかもしれない)、そして自分に合ったメイクによってピカピカの美しい女性になったのだ。
「美人」の似せかたを究明したくていろいろ考えて試した結果、けっこう地道で些細なことの積み重ねで「美人」というものが成り立っていくのではないかという気がした。