「絵を仕事にしたいけど、自分はそこまで絵が上手くないから無理かな……」
「絵が下手なくせに、絵の仕事してる人っているよね? 絵が下手でも仕事にできるの?」
と悩んでいる人向け、【下手の度合いにもよるだろうけど、仕事として絵を描くためには上手い下手より大事なことはあるかもしれません。】という記事。
自分は大して絵が上手くないので、「仕事にするなんてとてもとても……おそれおおくて無理です!」という感じだった。けれど業務委託で10年ほどパッケージデザインの仕事を経験してみて、感じたことがある。
- 絵の仕事って言ってもいろいろあるし、絵の上手さにもいろいろある
- いくら絵が上手くてもあれやこれができないと仕事にはできない
- 逆に自分のように大して絵が上手くなくても、あれやこれやができることで絵やデザイン系の業務をすることも可能
という話。
イラストの仕事に向いている人とは
絵さえ上手ければ仕事にできるかというと決してそうではないし、向き不向きはあるのではないかと自分は考えている。100点満点で120点レベルに絵が上手い人と80点レベルの人がいたとして、120点の人がいつも有利だとは限らない。80点でも、イラストの仕事に向いている人のほうがチャンスは得やすいのではないかという話。
ではイラストの仕事に向いている人ってどんな人なのか、自分の経験をもとに考えてみた。
時間や期日を守れる
まず、時間や期日が厳守できること、というのは業種を問わず当然の大前提としてある。それに付随して連絡が滞らないこと、返信が早いこと。これも社会人として当たり前。
自分は特にフリーランスだったから、仕事を請けるにも仕事を進めるにも無責任なことをしたら一発でアウトになってしまう。
しかしクリエイティブ方面で仕事をしていると、意外とここをナアナアにして脱落していく人って多かった気がするのだ。
高校の頃の友人で、絵やデザインの実力はすごくありつつ絶対に〆切を守らない人がいた。とにかくルーズで展覧会や課題提出の〆切を守ったことがないし、卒業までに完成させられた課題のほうが少なかった。どこか「私はアーティスト肌だから〆切を守れなくてもしょうがない。納得いくまでじっくり作業させてくれ。芸術の分からない素人は黙って待ってろ」みたいなところがあった。彼女は希望の美大には合格したものの、卒業後はどの仕事も続かなかった。
一方私は大した実力があるわけではないけど、自分でスケジュールを立てて周囲との兼ね合いを図りつつ計画的に作業を進めることだけは得意で、〆切と期限を前倒しで守るタイプ。どうしようもない事情でもしかしたら遅れるかもしれない、という場合はなるべく早いうちに状況を伝え、「今の途中経過はこうです。○日には提出できます」という連絡もこまめにする。自分の場合は「めんどくさいけど仕事だからそうしなきゃ」というより、神経質な性格だからそうせずにはいられないという感じ。
卒業後に先の友人に会ったとき、「は? なんで? なんで(美大受験にも挫折して絵も大して上手くもない)あなたが絵の仕事してるの?」と言われたことがあった。答えとしては「向いていたからかな……?」としか言えない。
コミュニケーション能力がある
これもまた当たり前なのだけど、コミュニケーション能力がないと難しいなと感じる。
「私はルーズでだらしないしコミュ障だから普通に勤めるの無理。自分のペースでできそうだし人と話さなくていいからイラストの仕事をしたい」というのはもってのほかで、むしろ他の仕事よりもコミュニケーションが重要だったとさえ思う。
ただコミュニケーション能力と言っても別にニコニコとフレンドリーに調子のいいことを言って相手を気持ちよくさせて好かれようとするとかではなくて、相手の要望をきちんと理解しこちらの要望をきちんと伝えることができればよいので、やろうと思えば誰にでもできる。これは向き不向きというよりはやるかやらないか、かもしれない。
学生の頃はまだ良かったけど、社会に出るとしばらく「ビジネス的な言い回し」に手こずった。
メールでのやりとりが多いのでビジネスメールのやりとりに慣れておくことでかなり楽になったし、スムーズに、物怖じせず意思疎通できるようになった気がする。
自分がフリーランスとしてデザインの仕事をし始めた頃に読んだのは『メール文章力の基本 大切だけど、だれも教えてくれない77のルール』。これ心強かったです。マナーうんぬんよりもきちんと伝えるメールを意識できるようになった。
業務に必要なソフトが使える
これも当たり前だけど、自分のしたい業務に必要なソフトを使えなければ仕事はできない。
自分の場合は主な業務がパッケージデザインだったから、Adobe Illustratorが必須だった。たまたま同人活動で使い慣れていたのですんなり仕事を請けることができたけど、もし Illustratorを使ったことがなかったらせっかく来たチャンスも請けることはできなかっただろう。
どんどんバージョンアップするので古い知識だと追いつかないことも多く、こまめに自分の知識もアプデしていくように心がけている(けど、このあたりは自分は不得意でなかなかしんどい)。
相手のイメージを形にするのが楽しい
仕事でイラストやデザインをする場合、当然ながら相手の意向がある。
「こんな感じのイラストがほしい」「こんな感じでデザインしてほしい」という相手のイメージを形にしなければならない。
「自分の描きたいものだけ好きに描きたい」「絵のこだわりがあってこれは譲れない!」みたいな人ではなくて「相手のイメージを形にして提案することが楽しい」と感じられる人のほうが、絵の仕事が苦にならないように思う。
クラウドソーシングなどでも絵の仕事を経験できる
「そんなこと言っても私は絵の仕事なんて未経験だし、実績を積むきっかけがないよ」という人も、最近ではクラウドソーシングという働き方もある。
自分の場合は企業から委託される形でイラストの仕事をさせてもらいつつ、クラウドソーシングでもサブ的に仕事を請けるという感じ。
クラウドソーシングで複数の取引先と関わったことは、主にコミュニケーションスキル的にメインの業務にも役立った。
取引先によって仕事の進め方や要求もいろいろ、連絡の頻度もいろいろ、意思の疎通具合もいろいろ、請求書の書式もいろいろで、柔軟性が養われたように感じている。
もちろん、イラストやデザインの引き出しは多い方がいい
絵がこれくらい上手ければ仕事してもOK、みたいな基準があるわけではない。
また「絵がすっごく上手いから締め切りを破っていい」「すっごくハイセンスだから連絡が滞ってもいい」というわけでもない。
じゃあ〆切を厳守できて連絡がこまめなら絵が下手でもいいかというともちろんそういうわけでもない。
日々イラストやデザインの能力も底上げしていかなければ、新しくものを生み出し続けるのはなかなかしんどくなってくる。自分も、業務のスピードに自分の実力が追いつかなくなって疲弊したこともある。もっと悪くなると、まわりの評価に自分の実力が追いつかなくなって盗作やトレースをしてしまう人もいる。
仕事で絵を描くこと自体そんなにハードルは高くないけれど、仕事として続けていくには信頼を積み重ねていかなければならず、そこからが本当にたいへんになっていくように思う。そこのバランスをうまく取りつつ続けていける人こそが「絵の仕事に向いている」のではないか。