「他人のイメージを形にすることを楽しめる人」は絵の仕事に向いている

イラストレーターになりたいけど、果たして自分に向いているのかな? 絵の仕事に向いているのはどんな人なんだろう?

と疑問に思っている人向け【絵の仕事に向いているのは「絵を楽しく描ける人」。もっと詳しく言うと「依頼人とコミュニケーションして要望を取り入れ、依頼人のイメージを形にすることを楽しめる人」なんじゃないか。】という記事。

絵を描くのが好きで得意であっても、絵を仕事にするとなるとまた別の話になると思う。

自分の描きたい絵を描くのは誰だって楽しいが、仕事で描くのは苦痛でしょうがないという人もいる。そんなに苦痛なのでは、その人には「絵の仕事は向いていない」ということになる。

逆に、「仕事でも絵を楽しく描ける」という人ならば、「絵の仕事が向いている」ということになるだろう。

仕事において「楽しく絵を描ける」とはどういうことなのかというと、具体的にはこんな感じ。

  • 他人のイメージを形にすることを、楽しめる
  • 自分の意向と違う要望をされても、楽しめる
  • 依頼人とのコミュニケーションを、楽しめる

自分がデザインの仕事をしていたときの経験をもとに、考えてみた。

「他人のイメージを形にすること」を楽しめるか

仕事で好きな絵を描けるとは限らない

著名な漫画家からもよく「自分が描きたいことと編集が求めることが違って苦しんだ」などというエピソードを聞くけれど、絵の仕事だって、自分が好きな分野や得意な絵が描けるとは限らない。

仕事で描くということは、お金をもらって依頼人のイメージを形にするということであり、好き放題に絵を描いてお金になるなんてことはまず無い。自分の場合も「100%自分の好きなように描く」というような機会は一度もなかった。

ここまで聞いて「えー、好きな絵が描けないなら仕事にしたくない。自分の好きに描けないなら意味がないもん」と思う人は、仕事にしてしまうとしんどいかもしれない。

自分の描きたい絵より依頼人のイメージ優先

自分が仕事として絵を描いていられたのは、「絵を描くのは好きだけど、自分の描きたい絵なんか別になかったから」だと思う。

「私はこう描きたいんだ!」みたいな、絵や表現に対するこだわりも少ない。同人活動もやっているけどマンガだけでイラストは描かないし、学生のときも「好きな絵を描きましょう」なんて言われると「別に描きたい絵なんかないんだけど……」と途方に暮れていた。

「これって創作意欲が希薄ってことじゃない? それって絵を描く人としてどうなの?」と悩んだこともあったけど、だからこそ絵を仕事にすることを楽しめたのかもしれない、と今は思う。

我欲が無いから依頼人のイメージを再現することに尽力できたのだと思うし、依頼人のイメージを叶えて形にしていくことに「楽しさ」を感じられた。

SNSでお題のリクエストを募ってみるとわかるかも

「そんなこと言ったって、実際に絵の仕事してみなきゃ分かんないよ……」という人は、SNSでお題のリクエストを募ってみると、なんとなく分かるかもしれない。

誰からのリクエストでも、知らないキャラでも、ちょっと絵にするの難しいなと思っても「わーめちゃくちゃ言いよるなあ、よーし、私なりに描いてやるぞ」とワクワク取り組めるような人は、絵を仕事にしても楽しめると思う。

逆に、

「最初はリクエストに応えてたけど、描けないものをかくのはめんどくさくなってしまった」

「リクエストいっぱい来たけど描きやすいのだけ描いて投げ出しちゃった」

「なんで私が描きたくないものを他人に言われて描かされなきゃいけないの?」

と感じてしまうタイプの人は、仕事にするのは難しいかもしれない。

「いやいやお金もらえれば話は別だよ、仕事なら喜んでやるに決まってるじゃん!」と思うかもしれないけど、やっぱりお金ではモチベーションはどうにもならない。(そもそも駆け出しが大したお金をもらえるわけでもない)

「依頼人の要望を取り入れること」を楽しめるか

依頼人はたまにめちゃくちゃな要望をする

お金をもらって絵を描く場合、依頼人や取引先が存在する。(あたりまえ)

取引先は「お金を払って希望に沿う絵を描いてもらいたい」と思っていて、そのために多かれ少なかれ要望を出してくる。(あたりまえ)

取引先の人は絵に関しては素人だから、こちらがこだわりを持って描いた部分や「完璧だ」と思って描いた部分を台無しにするような要望もしてくることがある。

たとえば「このエルフの耳を普通の耳にしてください。我が社のコンプライアンス的にこの耳だと問題なので」みたいなことを言ってくる。

あと自分の場合「指は必ず5本描いて下さい」という修正もあった。イラストで手を描くときって角度によっては5本の指が全部見えるとは限らないけど、「指が足りない人間を載せるわけにはいかない」と言うことらしくて頑強に5本描いてくれの一点張り。

そういうときにも「何言ってんだ絵心のない素人が! この角度から見たら指は5本も見えないだろうが!」とか思ってしまってはストレスがはんぱない。とてもじゃないけど立ち行かない。

自分のセンスや持ちうる全ての技術や知恵をぶっ込んで、不自然にならないように、かつ上手いこと指を5本描かなければならない。

それを楽しめるかどうかということ。

なんとか妥協案を作らなければならない

むちゃくちゃに思える修正要求があっても、自分の引き出しを全部開けて、何とかして妥協案を作れるかどうか。

絵の仕事をしていると、正直ここがいちばんストレスになると思うので、ここを楽しめるかどうかが絵を仕事にしてやっていけるかどうかの分かれ目になる気がする。

こう書くと「そんなの無理。嫌な仕事だな……」と感じるかもしれないけど、あっちの意見とこっちのセンスでどうにか着地点を見つけるのは、知恵の輪やパズルみたいで楽しくもある。

試行錯誤してなんとかなったときの快感も「仕事の楽しさ」の一つかもしれない。

依頼人とのコミュニケーションを楽しめるか

つまるところ、依頼人が「こういうイメージのイラストを描いてほしい」と言うのを汲み取るコミュニケーションを楽しめるかどうかだと思う。

おそろしい話だけど、多くの依頼人ははっきりイメージを持っているわけではない。「なんかこう、穏やかで、優しくて、こう……明るくて元気になるような……とりあえずいくつか描いてみてもらえますか? それを見て決めます」みたいな感じ。

その「なんかこう穏やかで優しくて明るくて元気になるような」、依頼人の中でさえイメージ化されていない何かを探り、絵にしていかなければならない。

また、絵が描けない人から「こんな感じで」と言われても汲み取るのが難しかったり、「そんなの絵にならないなあ」と感じたりすることも多い。けどそこでコミュニケーションを諦めたら仕事にならない。

自分の引き出しをひっくり返して全力で提案し、絵を描くことを楽しめるかどうか。

「自分は向いてないだろうな」って人ほど向いてるかも

大前提としてコミュニケーション能力は必須な気がする

「自分はコミュ障だから人と関わるのは苦手。黙って作業できる絵を仕事にしたい」と思う人っているかもしれないけど、絵の仕事ってたぶんそういうものではない。他の仕事よりよっぽどコミュ力は必要になる気がする。

自分もコンビニバイトから公務員までいろいろな仕事を経験したけど、いちばんコミュニケーション能力を必要としたのは絵の仕事だった。

たいていフリーランスでやることが多いから、お金の話やら納期の話やら、あらゆることを全部自分でなんとかする必要もある。

たいへんそうに聞こえるかもしれないけど、公務員としては落ちこぼれで職場から爪弾きにされていた自分にとっては「自分で全部やることができるフリーランス」は向いていた。人によってはそういうこともある。

熱いパッションがない人のほうが向いているかも

自分は絵を仕事にできるなんて思ったことはなかったし、自分には絶対向いていないとあきらめていた。

絵を仕事にする人っていうのはもっとこう、「これが描きたいんです! 命かけてます!」みたいな熱いパッションがあって、「ここはこだわりがあるので直せません!」とか、そういう感じだと思っていたから。

かたや自分は描きたい絵もないし絵にこだわりも薄く、「絵を描くのが大好き! 生きがい!」ってほどでもない。っていうか「絵を描くのが大好き! 生きがい!」なんて思ったこと一度もない。「こういう絵を描いて」と言われれば人よりは苦労なく絵が描ける、という程度。絵にこだわりがないから「もっとこうして」と言われればホイホイ軽率に直す。

でもそれがかえって良かったんじゃないかと思う。

安西水丸氏が、インタビューでこんなことを言っている。

僕がやっているイラストレーションというのは「絵」じゃないんですよ。

小さいときから絵は好きだったけど、それは自分の気持ち、感情や思ったことを視覚的に表現したかったから。

今も「絵」を描いているわけではなくて、依頼してくれた人の気持ちを自分の中でかみ砕いてビジュアライズしているという感じなんです。

リクナビ-就職ジャーナル(2011年7月27日)

自分の絵にこだわりを持つのがいけないわけじゃないけど、その上で依頼してくれた人とのコミュニケーションを楽しめないと、絵を仕事にするのは難しいんじゃないかと思う。

他人と積極的にコミュニケーションして要望を汲み取り、相手のイメージを形にすることに喜びを感じる。

それが、仕事において「楽しく絵を描ける」ということなんだろう。

意外と「別に私、絵を描くことにこだわりは無いしなぁ……」みたいな人が、絵の仕事に向いているのかもしれない。

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