「絵を描いていると他の人に嫉妬してつらい。これを解消する方法って無いのかな…」
「せっかく絵を褒められても、どうせお世辞でしょってつい卑屈になってしまう。根強い劣等感を何とかしたい」
という人向け【お金をもらって仕事として絵を描く経験をしてみたところ、嫉妬や卑屈や劣等感がやわらぎました。というかそんなの感じてる間がない。】という記事。
自分は以前、「嫉妬と卑屈と劣等感をしっとりプライドでくるみました」みたいな最大限にめんどくさい絵描きだった。
「上手いとか言われてもお世辞でしょ? どうせ私の絵なんか全然ダメでぇ(でもプライド高い)」
「いちおう美大には受かりましたけど、全然下手でセンスもなくて……(でもプライド高い)」
ご想像のとおりたいへん生きづらく、常に他の絵描きに嫉妬してどうせどうせと言いつつも自分では何も行動を起こさない、いつか私の絵の良さを分かってくれる人が現れる、分からないのはおまえらのセンスがないんだ! くそ! くそ! みたいな、ほんとぶっ飛ばしたくなるくらいイヤなやつだった。
それが知人の斡旋でデザインとイラストの仕事をすることになってしまった。(業務委託という形で、パッケージデザイン+それに派生する業務をしていました)
必死でせいいっぱいやっているうちにおかしな嫉妬も卑屈も劣等感もプライドが吹き飛んだ。というかそんなの感じている暇がなかった。そしていい感じの嫉妬やいい感じのプライドが生まれつつある。
絵に自信が持てないとか他人に嫉妬してつらい人ほど、お金をもらって絵を描いてみるといいのかも。と感じたので自分の経験について書いていく。
お金をもらって仕事で絵を描く経験。嫉妬や卑屈や劣等感が無くなった
恥をかきなれた
まず、「恥をかきなれた」というのがいちばん大きかったように思う。
何度も言うけどそれまでの私は絵に自信を持てないくせにプライドだけは高かったので。
「絵はただの趣味だから」「好きで描いてるだけだから」「自己満足でいいし別に他人に評価されなくていい。分かってもらえるとも思ってないしぃ」などとうそぶいて(今思い出すと自分にムカムカくる)、練習もしないしSNSにアップするのも理由をつけてやめてしまう。
だって人に見られて「なにこいつ下手じゃん」とか冷たくスルーされたらショックで死んじゃうし、「うわーダサ、センスない」とか笑われたくない。プライドだけは高いから。
人に見せるのは怖い、そのくせ誰かに認めてほしいという、こじらせめんどくさ絵描きだったのだ。プライドと承認欲求の袋小路に入って、もうまもなく圧死するな……という感じだった。
仕事で絵を描くという経験は、そんなアホみたいな状況をむりやりぶっ壊してくれた。
仕事だと「下手だからまだ見せたくない……」「え、ちょっとここ自信ない……どうしよう……」とか言ってられないから。
ガンガン描いてラフを見せて、「ここを直して」と言われたら直してまた見せて。
そんなことをやってるといやでも恥ずかしさがぶっ飛んでいく。
必死でなりふりかまわず食らいつき、社会人としての責任を果たさなければならない。
パリコレのモデルさんが舞台裏で着替えるとき、時間との勝負だから恥ずかしがってるどころじゃなくみんなガンガンまっぱになるって聞いたことあるけど、そんな感じ。
正直、とてもたいへんだったしつらい思いもたくさんした。仕事でつらくて泣いたのは初めてだった。
でも逆に、それくらいの状況でもなければ「恥ずかしい(ええかっこしたい)」という気持ちはいつまで経っても克服できなかったと思う。
あのまま行ったら私、40代、50代になってもプライドだけは高くてイジイジしたインターネットお絵描きマンで、Twitterに絵を上げるかどうか迷って「どうせ下手だから……」とイジイジする未来だったかもしれない。ゾッとするわ。
ちょっと強引なくらいに私に絵の仕事をさせてくれた知人には、今となっては感謝の気持ちしかない。これは言い過ぎではなく、命を救ってもらった。
他人は他人、と割り切れるようになれた
あとは、超絶上手い人を見ても「この人はこういう絵で勝負している人。私の土俵は違う」と割り切れるようになった。
自分はこの土俵で絵を描き、お金をもらう。あの人はあの人の土俵で絵を描き、お金をもらう。自分は自分、あの人はあの人。という感じ。
だいたい日々自分の目の前の仕事に必死なわけなので、違う土俵を羨ましがってる暇なんかない。
絵に自信がなくてプライドでがんじがらめだった頃は、絵が上手い人はあいつもこいつもみんな全部羨ましかったし、敵だった。
例えば、ジャンルの神絵師も羨ましくて憎かったし、週刊誌で人気の連載をしているようなプロの漫画家も羨ましくて憎かった。中学生のコンクールで賞をもらっている生徒にまで嫉妬していた。
絵が上手いって言われて褒められている人のことは全部全部羨ましかったし憎かったのだ。
「この人頭がおかしいな」って思う? 私も思う。でも同じ苦しみを持つ人のために恥をしのんで書いています。
自分のことを肯定できるようになれた
あとは、しばらく経ってから以前の絵を見ても、あまり恥ずかしく感じなくなった。
あるでしょう、ちょっと前の絵がむしょうに下手に見えて前消ししたくなる発作。全消しして「あ〜〜〜どうせ私は下手だからもう絵なんか描けない描きたくない!」ってなるアレがなくなった。
昔関わった製品を見ても「ここが未熟だけど、あのときはせいいっぱいやったんだもんな」「クライアントは喜んでくれたし、買った人も喜んでくれた。だったらそれがいちばんじゃないか。私のプライドなんてどうでもいい。」と受け止められるようになった。
自分の趣味の絵に対しても同じように「この絵、今見るとアラが目立つけど、○人の人は見てくれていいねしてくれたんだからこれはこれでいいよね。絵を消したら○人の『いいね』をむげにしてしまう。自分のプライドより○人のいいねを大切にしたい」と思えるようになった。
誰かのために描いて喜んでもらうっていうのは、自分への肯定感を強めてくれるんだなあと思っている。
あとスポーツマンがよく言うけど、全力を尽くすと本当に悔いって残らないんだな、ということを強く感じた。
趣味なんだから楽しもう、と思えるようになれた
以前は趣味のイラストなのに「ここが描けてない、下手だからアップしたくない」「アップしたけどなんかこの構図は違和感ある、下手に見えて恥ずかしい、ごめんなさいいったん下げます」とかすごく気にしていた。
けど、仕事でイラストを描く経験をしてからは「趣味のイラストは趣味でいいんだ〜!」とものすごい開放感を味わっている。
「完全に満足な出来じゃないけど、描きたいことは込められたからアップしよう」「このへんが描けてないなー、でもまあ、今の私はこの程度のレベルです」という感じで、気楽にSNSにもイラストをアップできるようになった。
だってもう仕事でさんざん直しを食らってるわけです。
未完成だろうが失敗だろうが人目にさらすことに慣れてしまったから、今さら怖くないわけです。(全然ではないけど)
SNSにアップするなら誰も直しを要求してこない。自由に描いていい。
趣味なんだから自分が楽しんでいいんだ! 楽しもう! と思えるようになった。
「誰かの役に立ちたい」という気持ちが満たされた
私の場合、これがいちばん大きかったのかもしれない。
私には「自分は何の役にも立てない、価値のないやつだ」という気持ちが常にあり、それを「絵が下手だし誰にも褒めてもらえない、だから自分には価値がない」みたいにすり替えてたんじゃないかと。
「仕事で絵を描く」という行動は、そこらへんをうまいこと全部満たしてくれた。
あくまでも私の場合は、です。
いい感じの嫉妬やプライドが生まれつつある
プライドがなくなって金をくれる相手にヘラヘラして、唯唯諾諾と言うことを聞く人間になったのかというとそうではない。
仕事で魂がすり減らされ、嫉妬も感じない人間になったのかというとそういうことでもない。
いい感じのプライド
仕事で絵を描くわけなので、当然ながら納期を守らねばとか不備のないデータを作らねばという責任感を持てるようになった。自分の技術の見直しをし、勉強もし直した。
また、依頼人の満足を得ることが最も大事なことであるので、「相手の欲しいものを全力で汲み取り、なるべく叶えたい」という気持ちも芽生えた。
相手の意向がデザイン上難しい場合はきちんと説明し、納得してもらう。その上で相手に満足してもらえるものを提案していく。
そんな経験を積み重ねているうちに、自分の絵やデザインに責任を持つことができるようになり、初めて「本当のプライドってこういうことかも?」というのがうっすら見えるようになった。
いい感じの嫉妬
絵を描いて褒められている者に対しては、たとえそれがプロの漫画家でもジャンルの神絵師でも写生大会で賞をもらった小学生でも全力で妬み、嫉む……!
それが今までの自分だった。
自分はどの土俵にも上がっていなかったから、強い人全員に嫉妬しなければならなかった。
けれど、自分がいざ一つの土俵に立ってみたことで考え方が変わった。
他の土俵で活躍している人を素直に「すごい!」と思えるようになってきた。
だって、隣の土俵の人がいくら強かろうが、私には関係ない。
そのかわり、「隣を見て参考になるところをどんどん真似して自分もこの土俵で強くなろう」というふうに思うようになった。
嫉妬をするにしても「この人の緻密で繊細な画風、すごいな! 私にはないものだ、悔しい! どこか真似できる部分はないかな?」みたいな、「自分のためになる嫉妬」ができるようになったのだ。
どうしようもなくなったら試してみてください
ここまで読んでも「うーん、でもなー、仕事で絵を描くって言われてもなー」と思うでしょう、たぶん。
なので、もう自分の絵に自信が持てないのがつらくてどうしようもなくて、なんとかしないと頭がおかしくなっちゃうギリギリくらいに追い詰められたらの、最後の切り札としてカバンの底に取っておいてください。
だってギリギリまで追い詰められないと人間って飛べないよね。
私もこじれまくったプライドのために生きるか死ぬかくらいのレベルでギリギリだったからこそ、思い切って飛びついて、かじりついてがんばることができたんだと思う。
お金をもらって絵を描く体験をしてから、私の人生をぐるぐる巻きにして今にも締め落とさんとしていたあのドス黒いプライドがうそみたいに薄らいでいる。ゼロじゃないけど、ふわっとしたストールくらいになった。
この安堵感を人に教えたい、昔の私みたいな人がいたら伝えたい、そんな気持ちで書いた記事です。
ただ、昔の私はそんなこと言われても「は? 私はあなたとは違うし!」と馬鹿にしてスルーしたと思う。
なので、無理におすすめする気は全然ないです。