マンガやアニメの絵の模写って意味ある?
模写をするとき、どんな点を意識すると絵が上達する?
と疑問に感じている人向け【模写をするのって①見たとおりに忠実に描く訓練になる②人体への疑問点が湧いて美術解剖学の知識が深まる②生き生きとした線を盗むチャンスになる、という点で意味がある練習だと思います。】という記事。
「マンガやアニメの絵を模写する練習は意味がない」「マンガやアニメの絵じゃなくてデッサンをすべき!」みたいなことがよく言われるけど、自分は絵を描き始めた頃は好きなマンガを模写するのがひたすら楽しかったし意味があるとかないとかじゃなかった気がする。
模写って「大好きなマンガやアニメのキャラを、自分の紙の上にも作り上げることができる!」という純粋な喜びだった。
絵を描く喜びを忘れかけていた頃に「昔は模写するだけであんなにワクワクしたのに……」とふと思い出してやってみたら、初心者30年目くらいの今やってもすごく楽しかった。
さらに、
- 見たとおりに忠実に描く訓練になる
- 人体への疑問点が湧いて、美術解剖学の知識が深まる
- デフォルメのパターンを知ることができる
- 生き生きとした線を盗むチャンスになる
こんな感じで、ある程度長く絵を描いてきたからこそ、今あらためて模写をすることがさらなる意味を持つかも? という気がしたので、それについて書いてみる。
見たものを見たとおり忠実に描く訓練になる
マンガやアニメの絵を模写するのは「見たものをそのまま忠実に描く」という訓練になる。
絵を描くことにおいてもっとも重要なことなのかも
初心者のうちは「模写なんだから見たまま描くのは当たり前じゃん、だから何? それってそんなに重要?」という気がしてしまうけど、これはかなり複雑でかなりすごい、絵を描くことにおいて根源的な訓練だと言えるのでは……?
だって、見たものをそのまま忠実に描けない人が、自分の頭の中のイメージをそのまま忠実に描けるわけがない。
描きたいものや描きたいイメージを忠実に描くスキルを身につけないまま漫然と描き続けても「頭に浮かんだネタを描いてみたら描きたかったのと違う→思い通りの絵が描けない→絵を描くのがストレスに感じる、つまらない」になってしまう。
そりゃあ、思い通りに描く訓練をすっ飛ばしているので、そうなる。
「思い通りの絵が描けない」というときについ才能とかセンスとか生まれつきとか謎の要素のせいにして自分を呪ってしまいがちだけど、「って言うか、あれ? そもそも私は思い通りに描く訓練をしてこなかったよな……?」と思い至ればそこを補完すれば良いわけで。
これから先も資料や写真を見て描くことは多い
またどんなに上手くなっても、たとえプロになっても(というかたぶんプロだったらよけいに)資料をきちんと見て描くというスキルは重要になってくる。
絵というのはどこまで行っても現実の二次創作だから、見たもの(三次元)をまずは忠実にとらえて、そこに自分のデフォルメを加えて作品(二次元)にしていかねばならない。現実(資料や写真など)を見て描くことはこれから先もずっとやっていくことだと思う。
見たものを正確にとらえないまま最初からデフォルメして適当に紙の上に再現してしまうと、説得力もないし、いわゆる「画力が低い」絵になってしまう。なのに、おごりや慢心によってついおろそかになりやすい部分だと感じている。
初心者の頃って模写をして「そっくりに描けた、完璧だ」とか思ったりしたけどそれはまだまだ「目」が未熟だったからで、今やってみると捉えきれないアラが見えて自分の「手」の未熟さが分かったりしています。
疑問が湧く→解決する、で人体への知識が深まる
マンガやアニメの絵を真似して描いていて「これって何の線?」「このへこみって何?」という疑問が湧いた……そんな経験がある人は多いと思う。
例えば首に斜めに入っている線。
最初は見たままわけもわからずばくぜんと模写していても、だんだん「この線ってどのマンガでもよく見るけど、何を表してるんだろう?」と疑問が湧いてくる。
そこで自分や他人の首を観察してみたり解剖学の本を読んでみると、「あ、自分にもこのスジある。胸鎖乳突筋っていう筋肉なのか。耳の後ろから胸骨につながってるんだな。横からだとここにこう浮き出るから、それを表現するために線が描かれていたんだな」ということが分かったりする。
こういった知識を積み重ねていくことで、自分で一からオリジナルを描くときにも自然な人体を描くことができるようになる。
たくさんの人が「美術解剖学は人体を描く上で大切。ぜひ勉強すべし!」と言っているけど、まあなかなか「じゃあ勉強するぞ!」とはいかないと思う。なのでマンガやアニメの模写はいいきっかけになりやすい。だって模写して描いてて謎の線があったら気になるもんね。
いろいろなデフォルメのパターンを知ることができる
上でも書いたけど、どんな絵も現実をデフォルメしたもの。
マンガやアニメは作品や作者によってそれぞれ違ったデフォルメをしているので、いろいろな作品を模写することでたくさんのデフォルメのパターンを知ることができる。
たとえば耳。描き手によってデフォルメの個性が出やすい。
一つの作品の模写だけだと「耳ってこういう形なんだ」と間違った思い込みをしてしまう。
たとえば生まれて初めてハマったマンガが吾峠先生の作品で吾峠先生の耳だけしか知らない場合、「耳ってカクカクっとして直線が入ってこうなっているんだ」と刷り込まれてしまうかもしれない。けど、他の作品を模写したり現実と照らし合わせたりしていくと「ああ、軟骨が浮き出しているのをデフォルメしてこう描いていたんだな」ということが分かる。
いろいろな作品を広く模写していくことで自分の好みのデフォルメパターンも見つけやすく、「自分はこういうデフォルメで描きたい」という取捨選択もできていく。
生き生きとした線を盗むチャンスになる
「生き生きとした線」というのは初心者が生まれ持ったセンスとやらで最初から描けるものではない。
やはり優れた描き手から盗むのが手っ取り早く、特にマンガ家はそれぞれ線に特徴が出る。線の強弱、入り(ペンを紙に下ろした描き始めの部分)、抜き(力を抜いて線が消える部分)など一つの絵でも線は一定ではないし様々なテクニックが使われている。
線の強弱や線の色気はいくら盗んでもパクリじゃない上に、絵の魅力に直結する大きな要素だと思う。(逆にそこそこ絵が上手くても線に強弱や色気がないだけで魅力が失われたりする。)
なので、たくさんの線を真似して描いてみて、好きなものを取り入れたいと考えている。
マンガではないけど、自分はこのクロッキー本の作例の線が好きで繰り返し模写して使っている。
意味のある模写をしていくためには……
好きなマンガやアニメの絵を模写することって初心者でなくても楽しいし、むしろ中級者以上の人にとっては自分の画力のテコ入れになるような、新たな発見につながることも多いのかもしれない。
一方で、中級者以上の人が何も考えずばくぜんと模写をするだけだともったいない、とも言える。
初心者〜中級者あたりの自分はこれからも"楽しいから"模写をしていこうと思うけど、
せっかくなのでこんな感じのことも意識してみます。