【デフォルメ】ってなんとなく使ってるけど、どういう意味なんだろう。ちびキャラとどう違うの?
と疑問に思っている人向け、【デフォルメとは、意図を持って変形や省略をした表現のこと。古代エジプト美術にも西洋美術にも見られる。ちびキャラはデフォルメの中の一つであって、海外では「スーパーデフォルメ」とも言われる。】という記事。
「デフォルメ」って人によって示すものが違ったりして、カリカチュアみたいなものを「デフォルメ」という人もいれば、ちびキャラのことを「デフォルメキャラ」と言ったりする人もいるし、自分はと言えば「絵は少なからずすべて現実のデフォルメ」だと考えている。
美術史をざっくり眺めてみると、いろいろなパターンのデフォルメが流行っては消えていったことが分かって興味深かったので、自分用のメモ。
※筆者は専門家ではないので、推測など正確ではない部分があります。
【デフォルメ】という言葉の意味とその歴史
デフォルメというのはフランス語で「déformer」。"変形させて表現する"という意味の言葉。
英語だとより意味合いがつかみやすくなる。
「deformation」、つまり「de(否定)+formation(形成)」で、そもそもは"形の崩れ"とか"不格好"という意味合い。
用語の意味合いだけで言えば、「現実を崩して描いて表現すること」全般を【デフォルメ】と称して良いことになる。
デフォルメは古代エジプトから始まっている
さかのぼってみれば、デフォルメの歴史は美術の発生とともに始まっている。
古代エジプト美術においては、たとえばスフィンクスを作るのでも「王の権威を示すためにとにかくでかい彫刻を作りたい! でかくするためにモチーフをシンプルな形に変えよう」という意図のデフォルメが行われていた。
また、少し前にエジプト神ブームがあったけど、当時からゆるキャラみたいなデフォルメの手法も存在していたことになる。
古代ローマ時代はデフォルメが流行らなかった
時代が進むと、今度は単純なでかさではなく「正確さ、緻密さ」で権威を示すようになり、古代ギリシャ、古代ローマの時代は精密な彫刻がたくさん作られた。この時期、デフォルメは流行らなかったということになる。
「デフォルメの反対語は?」と聞かれたら、「写実的、リアル、正確、精密、つまりローマ帝国時代の作風のこと。」と答えることができるかもしれない。
マンガ的デフォルメのマニエリスム
西洋ではルネッサンスを経て、宗教画の歴史の中から【マニエリスム】という表現が生まれる。
手を伸ばしていることを誇張するために腕を長めに描いたり、子どもなのに頭身を高く描いたり、本来ありえないくらいに体をひねって描いたりと、「よく見ると人体がおかしい」という表現がされている。
言わば、伝えたいことをより強調して主張するためのデフォルメ。
マニエリスムが生まれた背景としては、
- 宗教画なので、肉体のリアルさよりも精神性に重きを置いた表現が良しとされた
- ヒューマニズム(人文主義)という思想により、リアルよりも画家(人間)を通した世界に価値が置かれた
ということのようだ。
人体の正確さよりも伝えたいことを伝えることのほうが大切! というのは、今のマンガ的な表現にも近いと言えるかもしれない。
世相を風刺するポンチ絵やカリカチュア
さらに時代が進むと、画家は世相を風刺する絵を描くようになる。風刺絵は、表立って批判できないことを絵にすることで民衆の溜飲を下げる役割を担う。
日本では【ポンチ絵】などと呼ばれていたこの文化が、これがのちのマンガ文化につながっていったとされる。
似顔絵を誇張して描く【カリカチュア】というのも生まれた。
これはデフォルメの中でも特に人物の欠点などを悪意を持って誇張したり、歪めて描いたりする技法で、今も似顔絵のジャンルとして存在している。
その人物を風刺するために敢えて醜悪に形を変えて描き、民衆の溜飲を下げる、という意図があるデフォルメ。
先日、浦沢直樹さんが安倍首相のマスク姿の似顔絵を描いて「マンガ家が政治批判すべきではない」とか「いいやマンガはそもそも風刺のためにある文化だ」みたいに一悶着あった。
この記事の流れで言えるのは、
「これはマスクをじゃっかん小さめに描いているという点で"風刺"ではあるけど、人物の容貌を悪意を持って誇張したり、歪めて描いたりする"カリカチュア"ではない。だからジャンルとしては"ポンチ絵"かな」
ということくらいだと思う。
マンガやアニメのちびキャラは「Super deformation」
そして、マンガやアニメのちびキャラ(頭身の低い絵柄)。
デフォルメ=ちびキャラ、ではなくて、今まで挙げてきたような多様なデフォルメのうちの一つとしてちびキャラという表現がある、ということ。
英語では「Super deformation(スーパーデフォルメ)」と言われることもあるそうだ。
マンガ絵自体がすでにデフォルメなので、それをさらにちびキャラにデフォルメしてスーパーデフォルメ。
マンガなどでギャグっぽいアクセントとして用いられるほか、グッズにしやすいとか作画の手間が減らせるとか、他にもたくさんの意図があるのだろうと思う。
ひとことで「ちびキャラ」と言っても2頭身〜4頭身などいろいろなパターンがあり、用途や意図によって使い分けられている。
意図を持ってデフォルメする
デフォルメの歴史をざっくりと見てみると、「でかくしたいからシンプルにした」とか「宗教上の教えを分かりやすくするためにデッサンを度外視した」とか「風刺したいから顔の特徴を歪めて描いた」とか「グッズにしやすいように頭身を低くした」みたいに、どの時代も人体を描くにあたり目的や理由をもってデフォルメをしてきている。
「リアルな頭身の人体が描けないから、ちびキャラしか描けない」という話はよく聞く。
「ちびキャラしか描けないなんて逃げ」という意見もよく見かける。
たしかに、「ちびキャラしか描けないからちびキャラを描くというのは、何か自分の意図があってしているデフォルメ表現ではない」ということにはなるかもしれない。
デフォルメって何なのかを自分なりに考えてみると、
絵を描いていくうちに自分なりの省略や変形を加えて表現を豊かにし、より伝えたいことが伝わる絵にしていく。
こういうことなのかな、と感じた。