「上手いのにつまらない絵にはテーマがない」。ならばテーマって何だ?

上手いのにつまらない絵ってあるよな…基礎もしっかりしていて高い技術で描かれた絵なんだけど、見ていても心が動かされないというか。これってどうしてなんだろう?

と疑問に感じている人向け、【モチーフは描けていても、テーマ(伝えたいこと)がない絵はつまらなく感じるのかも? ならテーマってなんだ? どうやって描くの?】ということについて。

デッサンもしっかりしていてそこそこ上手い。背景も描けているし着彩もきれい。

それでも「見ていてイマイチつまらない」と感じる絵ってあると思う。

もしかしたら、自分の絵に対してそう感じている人もいるかもしれない。

いわゆる【上手いけどつまらない絵】。モチーフは上手く描けているけどテーマ(伝えたいこと)がない絵は、見る人にとって心を動かされる情報が少ないのでつまらなく感じてしまうのではないか。

  • 絵で伝えたいことって言われても……具体的にどういうこと?
  • どう描けばテーマがある絵になるの?

ということについて、自分なりに考えてみた。

【上手いけどつまらない絵】ってどんな絵?

【上手いけどつまらない絵】というのは、テーマ(伝えたいこと)が無い絵。

敢えて言えば、「私の絵、上手いでしょ?」「私はこういう絵柄も描けちゃうんですよフフフ」「背景も細かく描けてて目を引くでしょ? 雰囲気出てるでしょ?」みたいなことしか伝わってこない絵、というのはある気がする。

絵が上手い人ほど、この罠に陥りやすいかもしれない。策に溺れてしまうというか。

自分も「私は絵がそこそこ上手い」という幻想の中にいた頃はそういう感覚があった。

夢が醒めて「私はたいして上手くないぞ……」ということに心底気づいた今、以前の自分の幻覚にも気づくことができた。伝えたいこともないまま手癖でなんとなく描いても、誰の心にも届かない。だって、伝えたいことがないのだから。

逆に伝えたいことが強くある場合、技術が未熟でもたくさんの人に届いてしまうということもある。また技術不足を自覚している絵描きは、無意識で(あるいは意識的に)テーマを強めに打ち出すことで「そこまで上手くないけどウケる絵」にしていることもあるのかも知れない。

テーマ(伝えたいこと)って具体的にはどういうことなのか

「絵にテーマを」と言っても、「いじめ反対」とか「家族の愛は尊い」とかの気持ちを絵に込めるわけではない。それはメッセージであってテーマではないし、見るほうにとっても毎回そんなこと込められてもたぶん押し付けがましい。

「その人物が、今何をする途中なのか」程度のこと

テーマというのは、

  • その人物が今何をする途中なのか
  • どんな気持ちで何をしようとしているか

みたいな、ちょっとしたことだと自分は考えている。物語の一連の流れ、程度のこと。

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テーマがない絵には感想も言いにくい

こんなちょっとしたことではあるけれど、手癖でなんとなくポーズを決めて上手いこと描けてしまう人だと、置き去りにしてしまうことが多い気がする。

「その人物がどんな気持ちで何をしようとしているか」というテーマがない場合、いくら上手く描けていてもその人物はりんごとか風景と同じ、ただそこにあるだけの「静物」になってしまう。

もしりんごの絵を見せられて「何か感想を言え」と言われても「えーっと、上手く描けているりんごですね……?」くらいしか感想は出てこないのではないだろうか。

どう描いたらテーマがある絵になるのか

テーマテーマって言うけど、だったらどう描いたらテーマがある絵になるのか。

動きの連続性を意識する

自分は高校のとき美大受験のために(一応程度ですけど)指導を受けていて、人を描くときに、

「今この人は何をしようとしているのか」

「何をしている途中なのか」

「動きの連続性を意識しろ」

としつこく言われた。

多分そこが絵のテーマというやつだったんだろう。

首に手を当てて立っている物憂げなイケメン、というのが【モチーフ】だとすると(古くてすみません)首の痛そうなそのポーズが「うーん困ったなあ」なのか「(照れて)へへへ、参ったなあ」なのか「首が痛いなあ」なのか、だとしたら前後にどういう出来事があってその瞬間が生まれたのか、というのが【テーマ】ということ。

いい感じの人物がポーズを決めているだけの絵なら、静物と変わりない。どういう動きの途中でそのポーズなのか、どうしようとしているのか、ということを想像して設定することで、物語をまとった「ひと」を描いたことになる。のだと思う。

指導の中ではときには実際のモデルを呼んで、動いてもらって、動きの途中で止まってもらって、それをクロッキーするみたいなこともあった。

※クロッキーって何のためにするの? 意味なくない? みたいに思ってしまうけど、動きの連続性を意識する訓練でもあり、ひいては絵のテーマを表現するための訓練でもあったように、今となっては思います。

「見る人が興味を持てる情報」の量を増やす

情報量の多い絵、少ない絵というのがあるけど、執拗に描き込みさえすれば情報量が多くなるのかというとそうではない気がする。いくら描き込みが多くても「見る人にとって興味を持てる情報」の量が少なければ意味がないというか。

「見る人にとって興味を持てる情報」は物語をもたらす

たとえばメカを描くのでも、ボルト一つにしても「これは何をどう留める役割があるボルトなのか」「この時代のこの文化ではどういう金属を使っていて、どういう形状のボルトなのか(金属の硬度によって違うはず)」「このボルトが外れるとどこがどうなるのか」みたいな情報は、見る人にとって物語をもたらす。

人物の場合は「その人はどんな人で、何を思っているか」「今何をしようとして、どういう動作の途中なのか」みたいな情報があることで、見る人の想像がふくらむ。

「目が滑る」という現象が起こる理由

「pixivに上手くて描き込みもすごい絵のログが20枚くらい上がってたけど、最初の1、2枚見ただけでなぜか目が滑って途中から飛ばしちゃった」

「二次の小説を読んでいたら、文章は上手いんだけどなぜか目が滑って頭に入ってこない」

みたいに「目が滑る」という現象があるけど、

それは技術はそこそこ高いけど、見る人が興味を持つような情報が少ない作品なのかも、と自分は考えている。

なぜなら、脳は目の前のことから情報を読み取りたい。

そのために熱心に目を使ってその信号を脳へ送り、解析しようとしている。

なのに何も欲するような情報がないのでは、脳が「ちょっとー、何の情報(刺激)も入ってこないじゃん。この労力ムダなのでは?」と仕事を放棄し始めてしまい、見続けることが苦痛になってくる。つまり、飽きてしまう。ということなのではないか。

【いいね】は「上手いね!」ではなく「わかる〜!」

「上手いだけの絵にいいねがつきにくい」と言われるのも、「上手いだけで伝えたいことがないから」という理由の場合が多いのかもしれない。

というのは、いいねというのは「上手いね!」ではなく「そうそう、私も!」「分かる〜!」という共感によるものだから。

超絶技巧で描いたりんごの絵を見せても「上手いりんごの絵ですね!」しか言いようがないだけで、反応してくれない人が意地悪なわけではない。(「上手いねと言われるの不愉快です!」みたいな絵描きもいるから、そうなるともう感想を求められても何も言えなくなってしまう。)

センス磨きをしてみる

「そうは言っても、そんなのなかなか思い浮かばないよ……センスがある人は思い浮かぶんだろうけど……だって私センスないし仕方ないじゃん」と自分は思ってしまって、そこで思考停止していた。

今考えると、思い浮かばないということは、まだその要素や成分や原料が自分の中に無いというだけのことなんだと思う。

いくら筋トレをしてもタンパク質を摂取しなければ筋肉がつかないのと同じで。

センスが「ない」のではなく、まずはセンスの原料を摂取せねばならないのだ。

そこで凡人の自分でもセンスの原料を摂取して消化して取り込むため、合理的なやり方を自分なりに言語化してみた。

  • 流行りや定番をたくさんインプット
  • 自分ではどう表現するかを考える
  • 実際にアウトプットして、足りない技術があれば補う

上手く描くことより大切かもしれないこと

「上手いね」と言われるために描くわけではないはずなのに、なんかそっちに気を取られて、どうしても「何をどんなふうに描き、表現し、伝えたいのか」ということをおろそかにしてしまう。

そうすると「上手いけどつまらない絵」になってしまって、見る人もつまらないし自分も描いていてつまらない。反応もないしモチベも上がらない、の悪循環が始まってしまう。

だったら逆に、何を伝えたいのかという【テーマ】を意識することで描くのも楽しくなって反応も増えるのかもしれない。

絵の【テーマ】ってなんだ?
  • 動きの連続性を意識して描き、見る人にも意識させ、物語をもたらす
  • (見る人にとって)興味のある情報を増やし、物語をもたらす
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「自分は他人の絵のどんなところに物語を感じるのだろう?」というのを意識しながら見るようにもなったので、他の人の表現がより興味深く感じられるようになりました。「年下だろうが別ジャンルだろうが、ひとから学ぶことはたくさんあるな」と謙虚な気持ちも取り戻しています。

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