絵描きは芸術家じゃなくアスリート。体を思い通りに動かす練習をする

絵が思い通りに描けない。こんなにたくさん練習しているのに……

と悩んでいる人向け、【絵が思い通りに描けないのって、才能とかセンスとか根性ではなくて「体を思い通りに使えていない」からなのでは? と思ったから、ルーティンを決めたり準備運動やウォーミングアップをしてみた。】という記事。

「たくさん練習しているのに全然上手くならない、思い通りの絵が描けない」という人ってたいてい真面目で根気強くて、何時間も椅子に座りっぱなしでじっくりとがんばってしまっていることが多いと思う。

でも「思い通りの絵が描けない」って、「思い通りに体を使えていない」ということなんじゃないか? 何時間も座りっぱなしで同じ作業を繰り返していて、果たして思い通りに体を使えるようになるのだろうか?

おかしなフォームで100球投げ込みをしたって肩を壊すだけなんじゃないか?

イラストを描くって、もっとフィジカルなことなんじゃないか?

絵描きは芸術家ではなく、役者や歌手やミュージシャン、アスリートに近いんじゃないか?

そう思ったので、技術に則して自分の体を思い通りに使うことについて自分の経験や考えを書いてみる。

思い通りに絵が描けない=思い通りに体を動かせていない

自分は思い通りに体を動かせていなかった

いわゆる"音痴"というのがあるけど、あれも体が思い通りに動かせていないことで起こる現象だ。

自分は思うような声が出ないのが悩みで、ボイストレーニングに通ってみたことがある。

そこの講師に「喉の奥を上げる」「額から出す」「頬骨を上げる」というようなアドバイスをもらって、実際に目の前でやって見せてもらって、一生懸命真似してみた。

自分は似顔絵を描く人なので「私は見て真似するのは得意なはずだ」という自負もあって、また講師の褒め方も上手くて、一回目の練習でかなり思い通りの声が出るようになって驚いた。こんな簡単なことで! 何で今まで習わなかったんだ! と後悔した。

絵を描くときにも応用できるのでは

で、自分はこの感覚を絵を描くときにも使えているだろうか? と思った。

いくら完璧に歌詞を覚えても、100回お手本を聴いても、頭では分かっていても、まずは思った通りに発声できなければ意味がないように。

やみくもに何枚も何時間も絵を描いたところで、音痴のまま自己流で喉が枯れるまで歌っているようなものなんじゃないか? 

そんな練習はつらいだけで全くの無駄になってしまう。(そのつらい練習をすること自体が楽しいのならそれでも全然良いのだけど。)

「思い通りに体を動かす」って、すごく大事なんじゃないかと思った。

アスリート、歌手、役者は「体を思い通りに動かす」ことを意識している

例えばイチロー選手は「体は小さいけど"思い通りに身体を動かす力"はメジャーで誰にも負けない」と言っている。

武井壮氏も「身体を思い通りに動かせればどんなスポーツもできる」と言っている。

お芝居のジャンルだけど鴻上尚史氏も同じような提言をしていて、身体の使い方についての本を多く書いている。

「アスリートや歌手や役者ってたいへんだな〜、ほんのちょっとのことでバランスが崩れる繊細な練習をしているんだもんな」と我々は別の世界のことのように思ってしまうけど、イラストを描くのだってかなり繊細な作業なはず。

なのに、絵描きってそこらへんに無頓着な人が多いんじゃないかと感じている。

「自分の身体が思い通りに動かせているか?」と意識して絵を描いている人って、果たしてどれくらいいるだろう。

自分の身体を意識するためにやってみていること

毎日のルーティンを作ってみる

とりあえずなんでも形から入る自分としては、アスリートのように毎日練習のルーティンを作ってみることにした。

毎日同じことから始めるのって、自分の体が今どんな状態かというのが分かりやすい。

私が行っているのは、マルと直線を描くやつ。

と言っても描き始める前にキャンバスの端っこにチョロチョロっとやってみるだけ。今日の自分の体の状態を確認するために。確認できるまで描いたら消して終了。

調子が悪ければストレッチや深呼吸、軽い運動

いつもと同じ感じだったらそのあと普通に絵を描く。

何か違和感があればそれを解消する。

「なんか今日やけに右回りが歪むな」と思ったらペンだこができてて痛むとか、「なんか線に力が入るな」と思ったら肩に力が入っているとか、けっこう、毎日少しずつ状態は違う。

あと自分でよくあるのが、爪が伸びてて指先の感覚が違う、とか。

これに気づかずに描き始めると「なんか今日思ったように描けない! スランプだ!」「下手になった! 俺はダメだ!」になっちゃうけど、ペンだこが痛いならグリップを変えるなりなんか巻くなりする、肩に力が入っていたら立って肩を回す、ということができる。爪が伸びてるなら切る。

選手とトレーナーとコーチを一人でやる感じ。

連日の作業が続くと肩から首に疲労がたまったり、凝って思うように動かないなんてこともある。

そういう場合はそのまま作業に入らず、ストレッチや深呼吸で身体をほぐす。

「体が痛いけどがんばる!」というスポ根式をやっても効率が悪いし痛いの悪化するし、それで自分は整体通いを余儀なくされたこともあるので今はしないようにしている。

描くものとテンションを合わせるために、音楽や散歩を取り入れる

デザインの仕事をしている頃「ちょっとイラストが沈んでいる気がするんだけど……もっと楽しそうなイメージでお願いしたい」と言われたことがある。

そのときはやったことのない業務で緊張していて、座りっぱなしであーでもないこーでもないとやって、無難に小さくまとまろうとしていた自覚は自分にもあった。そういうのってちゃんと伝わるんだな、と思った。

なのでメロコアを聴きながらノリノリで30分くらい外を早足で歩いて、テンションを2、3段階上げてから再トライしたら好評をいただいた、ということがある。

「身体的なテンションを上げれば気持ちもそれに引きずられて上がる」というのを、そのとき身をもって実感した。

デジタル派だけど、アナログの練習も続けている

今は基本的に絵を描くのは全部デジタルなんだけど、小さなスケッチブックを置いておいて感覚を確かめることがある。自分の調子を判断する要素は多い方がいいし、デジタルだと自動補正がかかって線に調子が現れにくい、というのもある。

自分はつい全部デジタル頼りになってしまうため、ソフトを変えたりアプデで設定が変わって調子がガッタガタ、みたいになるし。

絵を生み出すための、大切な自分の身体をいたわる

クールダウンをする

就寝直前までギンギンに作業して、疲れ果てて肩ガッチガチのまま布団へバッタリ……みたいなのは睡眠の質も悪く翌日に疲れも残る。自分の場合、首から肩が凝ったまま寝ると朝起きて顔や手がむくんでいたりして、それもよろしくない。

絵を描く前に準備運動をするように、描いた後もクールダウンしてみている。使っているのはストレッチポール。就寝する直前にも行なっている。

ポールの上に寝転がるだけで背中から首がグニャグニャにほぐれるんですこれ。

最初ポールの上に寝ると痛すぎて「いっっったい! これ本当に寝て大丈夫なやつ!?」となるんだけど、深く呼吸をしながら少しずつ体の力を抜くと、だんだん背中が柔らかくほぐれてくる。そして背中がポールに巻きつく感覚になってくる。力が抜けきって「このまま眠れるな……」と感じるくらいまで。

そのあとは枕のように首の下に置いてゴリゴリ首をほぐす。「あ〜」と気持ちいい声が出るまで。

これを習慣にしてから、寝つきがスムーズになった。

自分はストレートネック気味で常に首が痛くて、ちょっと無理するとすぐひどくなっていたんだけど、ストレッチポールを毎日使うようになって整体に行かなくてよくなった。うれしい。

ペンにグリップをつける

自分はiPadとApple Pencilで絵を描くけど、Apple Pencilって細くて重くて、どうにも疲れやすい。

なのでグリップをつけて、持ちやすく疲れにくいペンにカスタマイズするようにしている。

自分が使っているのはこれ。

無茶をしない

若い人ほど体力もあるせいか、半分徹夜でずっと作業をする人がいる。プロアマ問わず、絵を描く人ってつい無茶をしがちなんじゃないだろうか。

けどそれって手の関節や腰とか首に負担がかかるだけじゃなく、座りっぱなしは内臓にも大きな負担がかかるのだそうだ。そこに睡眠を削るというダメージも加わる。

イラストって座ってできるからつい長く作業してしまうけど、自分の身体に意識的でいれば、むやみに長く座りっぱなしの作業はできないはず。

自分も以前はアラームをかけたりしていたけど、最近は「疲れそう」という感覚が分かるようになってきて、「疲れる前に休む」というのができるようになってきた。

お世話になった整体師によると「疲れた」と感じたらもう遅いのだそうで、疲れるまでやってしまうと回復が遅れてしまうらしい。なので「疲れる前に休む」。根性なしでいいんです。

絵描きって、歌手やアスリートみたいなもの

絵が上手く描けないのは「才能やセンスがないから」「努力が足りないから」みたいに、つい精神論になりがちで、「睡眠時間削って毎日○時間がんばるぞー!」とやってみたりして、労力のわりに結果が出なくて、とてもしょんぼりしてしまう。

それって昔懐かしスポ根時代の感覚ではないか?

昨今アスリートたちはもうそんな時代遅れな練習はしていない。

自分のその日の体の状態に合わせて練習メニューを変更したり、休養を取ったりして、スポーツ科学に則った練習をしている。なのに絵描きはいまだに『巨人の星』時代の、根性だけで自分の体を痛めつけてなんとかするみたいなことをやっている。なぜ。アスリートよりも体力の少ない我々がなぜそんな、自分の体と精神を追い込むような力づくの練習にこだわってしまうのか。

自分は美大から逃げて普通の大学に進学して、演劇をやったり楽器をやったりスポーツをやったりしてみて、自分のフィジカルと向き合うことを初めて知った。声が小さくてモソモソしているのがずっとコンプレックスだったので、ボイストレーニングにも行ってみた。

座ってウンウン悩むだけの芸術家気取りをやめてからの方が、絵に関するもろもろがうまくいっている。趣味で絵を描くことも楽しくなったし、デザインの仕事も経験させてもらえた。

がんばっているのに結果が出ない…という人は、座りっぱなしで脳と手先だけでこちょこちょやるのをやめてみるの、いいかもしれない。脳と手先だけじゃ限界もある。

あと、座りっぱなしってかなりダメージ蓄積されるから、絵描きのみなさんはもっと自分の体を大事にしてあげてほしいという気持ちがある。常に。

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