
「絵が上手くなりたいけど、何をすればいいか分からない」
「だいたい、絵が上手いってどういうこと? どこを目指せばいいの?」
そんな疑問のために、【絵が上手いってどういうこと?】についてまとめている。
まず、絵を描いていく上でのあなたの最終目標はなんだろうか。
「絵が上手くなりたい」というのは最終目標ではないはずだ。
そもそも絵というのは太古の昔から、宗教の教えを説いたり、偉い人の功績を称えたりなど"人に伝えるため"に描かれてきたもの。
今では、"自分の中にあるものを表現するため"に描かれることが多いと思う。(上手い絵を描いてチヤホヤされたいから、という理由はここでは置いておいて)
「絵が上手くなりたい!」というのはつまり、
「自分の中にあるイメージを、もっと上手く伝えるための手段が欲しい!」
ということではないだろうか。
つまり"自分の中にあるもの、表現したいものを描くために、どんな方法を磨いたらより良いか"ということ。
そうすれば、「上手い絵ってどんなもの?」という問いにもたくさんの答えが出るし、具体的にどんな方法をとればいいかも分かってくる。
絵が上手いってどういうこと? のバリエーション9種
この要素が全部なきゃダメ、なのではなくて、あくまでも自分が考える【上手いのバリエーション】を挙げています。
※ここでは敢えて"人体を正しく描ける"という要素は抜いています。
流行りの絵柄が描ける
まずは、流行りの絵柄が描けるということ。
主にpixivなどのイラスト系SNSでは、絵柄にも流行がある。
当然、流行りの絵柄はたくさんのいいねを集めやすく、いわゆる"神絵師"にもなりやすい。
「あんな絵、別に上手くない。流行ってるだけじゃん」と批判する人も多いけど、"アンテナを立てて流行りの絵柄をキャッチし、おおぜいに受け入れられるイラストを描く"というのはたいへんなスキルであり、重要なセンスの一つだと思う。
西洋美術の歴史だって、さまざまな流行で成り立っているのだから。
動きのある絵が描ける
生き生きと動いているような絵が描けること。
人体はそこまで正確に描けていなくても、上手いと感じるのではないだろうか。
動きのポイントを押さえて表現することは、人体を正確にとらえることとまた別の能力が必要になる。
正確に描くことより、ちょっとした誇張やデフォルメをすることで"よりそれっぽく"見せる技術。
例えばジブリ作品などでは、キャラクターのささいな仕草も生き生きと表現するために、一枚一枚に心を砕いている。
漫画家やアニメーターを目指す人は、特にこの要素も重要になるだろう。
人目を引く配色ができる
色で魅せる、というのも絵の要素だ。
最近はSNSで海外のイラストレーターたちと交流することも多いけど、日本にはない色遣いでハッとすることも多い。
環境や文化、好みによって、使う色彩は意外と固定されてしまっているのかなあと感じる。
だからこそ磨かれた色彩感覚で、人目を惹く配色ができるというのは大きな強みだと言える。
表現したいことをガンガン伝えてくる
想いがガンガン伝わってくる絵が描けること。
人気マンガでよくあるパターンが、「デッサンは狂いまくってるけどアクションシーンが最高。デッサンの違和感を凌駕する」みたいなものだ。
画力が低い漫画家、なんて揶揄されたりするけど、それがなんだっていうくらい熱量がすごい。
ルネサンスの後期にも、【マニエリスム】という流行があって、これも現代風にいうと「骨折絵だけど表現したいことがガンガン伝わってくる」。
そもそも絵というのは、何らかの想いを伝えるためのもの。
とすれば、画力が低い=絵が下手、なわけではないはずだ。
模写が正確にできる
模写が正確にできること。
「模写ができてもオリジナルが描けなきゃ意味がないよ」と言われるけど、アートの世界には【贋作師】という存在もある。
ベルトラッチという贋作画家は2000点のニセモノを描いて、その被害総額は45億以上だったという。
しかしその絵を「上手い」「素晴らしい」と思った人が多かったからこそ、美術界を騙し続けることができたわけだ。
(※当たり前だけど模写して自作発言はダメです)
よく見てディテールを描ける
よく観察し、見たものを写しとる表現力が優れていること。
小さい頃、図工の時間によく言われたのが「よく見て描きましょう」。
カブトムシの足に生えてる毛とか、松の木の樹皮一枚一枚、よーく観察してそれを画用紙に写しとることができる。
それは観察力、見たものを写しとる表現力が優れているからできるのだ。
小学生の一見つたないような絵でも、「ここの部分の描写すごい! よく見て描けてるなあ!」と感嘆することもある。
それの延長線上にあるのが、桂正和先生の描くパンツのシワ。(個人的な意見です)
そのディテールが、人の目と心を惹きつける。
デフォルメ、省略ができる
適切なデフォルメ、省略ができること。
どれだけリアルに描こうが、しょせんはどんな絵も現実のデフォルメ。
"現実を紙の上にどうやって表現するか"というのが絵描きの命題だから、デフォルメや省略のスキルが高ければ高いほど【絵が上手い】と言える。
似顔絵なんかも、特徴を簡略化してその人物の顔を表すスキルだ。
正確でなくてもそれっぽく見せて、伝えることができる、ということ。
絵を描くためのソフトの知識がある
絵を描くためのハードやソフトの知識があること。
今やデジタルが主流で、絵の仕事をするならデジタル絵が描けないと難しい。
絵を描くためのソフトを使いこなせることも【絵が上手い】と言えると思う。
適切なブラシを選び、パース定規を使いこなし、印刷にモアレが出ないようなトーン処理をしたり、必要なエフェクトをかけたりする。
「デジタルなんて、絵が下手な人が楽してるだけ!」という人もいるけど、本当にそうだろうか?
視線誘導の勘がある
見る人の目を、誘導できる絵を描けること。
いわゆる"視線誘導が上手い絵"を描く人がいる。
構図だったり、モチーフの大小、空間の開け方、色選び、描き込みの粗密などで自然に見る人の視線を誘導し、大きな感動を与えるテクニック。
これはテキストなんかで学んで覚える人もいれば、多くの作品に触れることで知らず知らず身についてしまい、感覚でできてしまう人もいる。
"部分部分を見るとそれほどの画力ではないのに、イラスト全体を見たときについつい引き込まれ、見入ってしまう"みたいな経験は誰しもあるだろう。
自分の伝えたいことに応じて表現を磨こう
「絵が上手くなりたい」というのは漠然としすぎていて、何からがんばればいいかも分かりにくい。
だからつらくなったり、挫折したりもしてしまう。
「あー痩せたい(けど何していいかわからない)」では痩せない、あれと似ている気がする。
だから「絵が上手くなりたい」は、私の中では禁句にしている。
「絵が上手くなりたい」では自分の首を絞めるだけ。まずは、自分は何を伝えたいか、見る人にどんなふうに感じさせたいかをはっきりさせるのがいいんじゃないか。上に挙げたバリエーションの(もっと他に自分の目指すものがあるならそれでもいい)、自分はどれを目指したいのだろう。
見ていて心臓がギュッとなるようなアクションシーンが描きたいなら、人体の精密なデッサンより他に磨くべきことがあるだろうし、
一瞬リアルの世界に引き込まれるような細密な絵が描きたいなら、観察力や写しとる練習が必要になるだろうし、
パッと見て「似てる!」と笑ってもらえるような似顔絵を描きたいなら、線の省略をあれこれ試してみるのもいいし。
「絵が上手くなりたい」と願ってしまうことで、にっちもさっちも行かなくなっている人ってたくさんいると思う。
上手い絵にも無限にバリエーションがあって、自分がどれを目指すのかが分かれば道を見失いにくい。