なかなかいいねがつかなくて、どうやったらウケのいい絵が描けるのか分からなくなってきた
フォロワーが増えてくるにつれて、みんなに評価される絵を描かなきゃと空回りしちゃってる気がする……
と悩んでいる人向け【そういうとき自分は「誰か一人のために描いてみる」というのをやっています】という記事。
ネットに絵を公開している人の場合、「ここはこうしたほうがウケがいいかな……?」とつい意識しちゃうみたいなこと、誰しも経験があるんじゃないだろうか。
自分も長らくインターネットお絵描きマンをしてきたので、無意識で「こういう絵のほうがウケがいい」「こういう絵は手間のわりに目に留めてもらえないから却下」みたいなのを考えてしまい、同じ労力ならウケがいいほうをとってしまうことも多い。
「どうせ描くならウケのいい絵を描いてたくさんの人に見てほしい、楽しんでほしい、面白がってほしい」という感覚はどうしてもある。
純粋に楽しくて描いていた頃と比べて中途半端にこざかしくなってくると、勝手に周囲の反応の板挟みになって混乱してしまい、思うように描けなくなった、投稿するのがおっくうになった……そんな経験ないですか? 私はある!
『タッチ』で明青学園が元チームメイトの吉田投手と対戦したとき、こちらの選手のクセを全て把握している吉田に最初は翻弄される。しかし柏葉監督によって技術が向上した明青ナインに打ち込まれ、どこに投げればいいのか分からなくなった吉田が自滅していく……というシーンがあった。
自分もそのこざかしい吉田になっちゃってるなと感じるときがあった。
そういうとき「誰か一人のために描いてみる」をやってみたらけっこうよかったので、それについて書きます。
投稿し続けることで「こういう絵がウケやすい」というのは分かる
まず「どんな絵を描いたらウケるのかまったく分からない」という人は、まずある程度の期間投稿し続けることで分かると思う。というか投稿し続けることでしかデータは取れない。
自分も毎週イラストをTwitterに投稿してみていたことがあったのだけど、「え、意外、こういうほうがウケるんだな」という発見もいくつかあった。一つの例として参考までにその発見を紹介すると、
- 色は明るいもののほうが伸びた
- リアルっぽいタッチより点目ゆるふわ絵柄のほうが伸びた
- ゴールデンタイムにアップするほうが伸びた
※「だったらいいねを伸ばすためにはそういう絵を描けばいいんだね?」ではなく、あくまでも自分のジャンルの自分のフォロワーを中心としたクラスタではそういう傾向がある、と自分が感じたということです。
ある程度投稿し続けることで、こんな感じに自分の所属するクラスタまわりの好む傾向がなんとなくわかった……のだけど、そこにあぐらをかくと吉田になってしまうし、新たな問題が生じる。
まず、「ウケる感じ」にとらわれすぎると自分が楽しくない。「本当はこういうふうに描きたいけど、いいねが減るかもしれないし……」「こう描くとこっち方面の人にウケるけど、あっち方面の人にはスルーされる」とかジレンマも出てきて勝手に板挟みになって、絵を描くことがめんどくさくなってしまう。
全員にウケようとするとわけわかんなくなるし、失礼なのかも
でもあるとき、「これって見てくれる人をバカにした考え方なのかもしれないよな。同じ推しを推し、私の絵を楽しく見てくれる人を"いいねをする頭数"として見てるってことだよな」と気づいた。
広告会社が○十代の女性にターゲットを絞って「○十代の女はこういうイケメンが好きなんだろ? 誰々起用しときゃイチコロなんだろ? 楽勝だぜ」と広告を打つみたいな。
確かに一定数の○十代女性はまんまと喜んでくれるけど、「その手には乗らねえよ!」という人だって多いはずだし、まんまと乗ってくれる一定数の人たちもすぐに飽きて去っていく。自転車操業で次の広告塔を発掘してくることになって、使い捨てていく……そんなの、ターゲットを群衆としてしか見てないし、全方向に失礼な話だと自分は感じてしまう。
Twitterで絵を描くにしても、前回の絵に500のいいねをつけてもらったとして、その500人全員に再度ウケて再度いいねをもらいつつ、かつ新しいいいねを増やそう、なんて考えると頭がおかしくなる。
「絵を描くのが怖い」「絵を描くのがプレッシャーでつらい」になってしまっている人って、そこを狙っちゃってる気がする。
「誰か一人のためだけに描く」をやってみる
ではどうすればいいのか、と自分があれこれ悩んでたどり着いたのは「誰か一人のためだけに描く」という方法。
前回いいねをくれたうちの、誰かたった一人のために描く
前回の絵に500いいねがついたとしても、499人のことは忘れてその中の一人のためだけに描く。
例えば「推しのこのときの表情、私も笑っちゃいました! あなたのイラストを見て思い出してまた笑ってます」みたいなうれしい感想リプをくれたフォロー外の見ず知らずのありがたい誰かがいたとして。「あの人にもう一度笑ってもらいたいな!」それだけを目指して描く。
友達でも知り合いでもなくても、尊敬する絵描きさんとかでなくても。(むしろ全然関係のない相手のほうがいいまである)
顔も知らない誰か一人を想定して描くと、「あの人はこういうのも好きなんじゃないかな? ここ分かってくれるかな? 笑ってくれるかな? もっと正確に伝えたいから、こんなふうに描いてみようかな?」と配慮や思いやりがガンガン湧き出してくる。
絵ってやっぱり何かを誰かに伝えたくて描くし、「あの人に伝えよう」と思って描くと丁寧にもなるし、表現にも気をつかうから。
前回いいねをくれた500人の「群衆」を相手にするから空回るのであって、自分に絵を喜んでくれた誰か一人のために描こうと決めたことで楽しく描けるようになった。
吉田も過去のデータなどではなく今の明青の選手の一人一人と向き合って真摯に投げていけば、最後まで混乱することなく好試合ができたと思うのだ。
一人のために描くとなぜかおおぜいにウケたりする
そして、そうやって誰か一人のためだけに描いたものってなぜか多くの人に「いいね」と言ってもらえたりする。こういう経験ある人も多いんじゃないかしら、ごく内輪ウケのために軽〜い気持ちで描いたらいつもより伸びた! なんでだ!? みたいなこと。
笑ってほしくて配慮や思いやりを込めてノリノリで描いた絵だもの、他の人にもよろこんでもらえるのも自然なことといえば自然なことだなと思う。
自分は仕事で絵を描いていたときに、「この世のどんな誰が見るか分からない! なるべく多くの人に好まれるものを描かなければ!」というプレッシャーで精神が破裂寸前だった。なのでとにかくまずはクライアントが気持ちよく「OK、これいいね!」と言うものを目指すようにしていた。
いずれ商品になればクライアント以外の人の目にも触れるわけだけど、そこを想像していたらキリがないからだ。顔もわからない通りすがりの人が私の絵を見てどう思うかなんて、考えてたら気が狂う。
だったらクライアントが「良い! こういうのが欲しかったんです!」と言ってくれるものを目指すしかない。
ラブソングだってそうでしょう、「世の片思いをしているティーンが全員泣くような、全員に刺さる曲を作ってやろう!」と"君"とか"僕"が泣いたりキスしたり別れたりするぼんやりしたラブソングを作るより、「自分の23歳の時の失恋体験を歌にしました、個人的すぎて恥ずかしいですが……」みたいな曲の方が名作になったりするでしょう。
「本当に自分の絵を好いてくれるフォロワーさん」がいるのはありがたい
自分の絵をよく見てくれるフォロワーさんが少数でもいて、そんなフォロワーさんをもっと楽しませたいと(勝手に、ひそかに)思うことで、迷わずに楽しく絵を描くことができるんだなと実感した。
だからおおぜいフォロワーさんがいることもいいのだけど、少数でも本当に自分の絵を好いてくれるフォロワーさんがいるのってすごく心強いなと感じる。心の灯台になってくれる。
評価に振り回されて自分が方向性を見失いかけたとき、「フォロワーのあの人ならどういう絵が見たいだろう?」「フォロワーの誰々さんを喜ばせたい」と思えるから。
誰のためでもいいから、誰かのために描いてみる
どう描けばウケるのか考えすぎて空回りしそうになったり「私はなんのために絵を描いてるんだ?」と思ってしまったら、誰か一人を勝手にターゲットに設定して、その人のためだけに描いてみる。これけっこう自分は気に入っている方法です。
ブログを書くのもそうで、よく「記事をたくさん読まれるにはペルソナ(ターゲットの読者)を設定するべし」みたいなことが言われる。顔も知らない一人一人のニーズを考えたらキリがないし、全員に刺さるもの(=誰にも批判されないもの)を書こうと思うと内容が散漫になって、結果としてただの駄文になってしまうというのも、何度も実感している。
だから誰か一人だけ決めて、その人に伝えるためだけに。
これは本当に誰でもよくて、リプをくれたフォロワーのあの人でもいいし、RTして「これ好き」と一言ぽつりと言ってくれていたフォロー外のあの人でもいいし、いつも黙っていいねをくれるあの人でもいいし、見てるか見てないか分からない推し本人とか、憧れの絵描きさんでもいい。(自分の場合はなるべく関わりのない相手を想定したほうが遠慮なくのびのび描ける。)
もちろん(勝手に、ひそかに)ターゲットにしたその人から反応がもらえなくても全然いい。←重要
誰か一人のために描いてみること自体がポイントなわけなので。また、そうやって描いた絵はなぜか他の人にもよろこんでもらえたりするし。
「ウケる絵を描かなきゃ、でも何をどう描けば……」と空回って混乱して吉田になっちゃってどうしてもつらい時に、もし思い出したらちょっと試しにやってみてください。