アイドルや俳優のファンアートで写真そっくりに模写して絵を描いてる人っているけど、それなんの意味があるの? 写真そっくりに描くなら写真でよくない? それに、写真の複製をSNSに投稿するのって著作権的に大丈夫なの?
という疑問を抱いている人向け、【写真そっくりに模写練習する意味とSNS投稿の是非】について考えてみた記事。
写真そっくりに模写して描くということに対して、以前は「そんなの、描き手の創作性がないしつまらないのでは? それなら写真でよくない?」と自分は感じていた。
でも絵の練習をあれこれ試すうち、模写練習の意義にやっと気づいてきたのでそれについて自分の考えを書く。
あと、写真そっくりに模写したものをSNSに投稿するのってどうなんだ? ということについても。
模写練習は入力と出力の訓練
正しく出力するための訓練
自分は一応レベル程度で大したことのない美大受験を経験しているのだけど、受験のためにデッサンをやらされた。
未熟で傲慢だった自分は「こんなのつまらない、意味ない、オリジナリティが出せない。私は私の中のオリジナルの創造性を絵にしたいだけなのに。こんなの私の尊い個性がころされてしまうよ!」と感じていた。
が、「そこにあるものを、そのまま絵に描き表す」という技術もないくせに何がオリジナルだよ……何が創造性だよ……と、今はあの頃の自分の傲慢さを恥ずかしく思う。
絵を描くというのは「自分が描きたいものを描きたいとおりに描く」ができないと成立しない。
「実際そこにあるもの」を見た通りに描くことすらできないのに、「自分の頭の中にイメージとしてあるもの」を思い通りに描くことができるわけがない。
つまり、模写練習というのは正確に出力するための訓練なのだと思う。
正しく入力できているかの確認にもなる
人間の脳というのは複雑なので、意外と「ものを正確に入力する(見て認識する)」ということって難しい。
自分では「私はものを正確に入力できている。観察力には自信があるんだフフン」とか思っていても、出力してみる(実際に紙に描く)ことで、そのズレを目の当たりにすることができる。
模写練習(入力と出力)を繰り返すことで、自分の認識ってどこに欠けや齟齬が生じがちなのか、みたいなことも分かるようになってくる。
「MPがないけど絵の練習をしたいとき」にもよさそう
絵を描くことをざっくり二つに分けると「創造行為(MPが必要)」と「作業行為(HPが必要)」だと自分はとらえている。
絵の練習って毎日していると「絵を描きたいけど体力や時間がない」というときや「体力的、時間的には絵を描けるけど、気力だけがない」というときってあると思う。
前者の場合はお休みして寝ちゃえばいいけど、後者の場合は何かしたい。でもMPはゼロ。そういうときに模写っていいよなと最近は感じている。
一から創造しなくていいので、HPだけで練習ができるということ。
型を身につけた上での「型破り」
昔の私「でもさ、正しい入力とか出力とか必要なの? 絵ってパッションじゃん? 私のこの唯一無二のオリジナリティだけで勝負できると思うんだけど?」
自分は若いころ、「最初から自分のオリジナルで」、「先人の作品とか全部いっさいバカにして」、「何かすっごい誰もやってないようなすっごいこと!」を表現しようとあがいていたけど、こう書くといかにそれが傲慢なことであるかが伝わると思う。しかもこれすごい回り道になる。
歌舞伎俳優さんの言葉として「まずは型を身につけなければ型破りはできない」というのを聞いたことがある。すべての芸事において言えることだと思う。
基本、基礎、型、というものを積めば積むほど逆に早いんだということをタイムスリップして十代の自分に教えたいけど、十代の自分は傲慢天狗だから未来から来た私をバカにして取り合わないだろう。かなしみ。
写経的な趣味として
「より自分の思い通りの絵を描くための訓練」とかでなく、単に趣味として行う模写練習というのも、自分は否定したくない。
例えば推しとか、好きなモチーフを描くのはそれだけで没頭できて楽しいこと。それを「オリジナリティがない絵なんて描く意味ある?」とか頭ごなしに否定することこそなんの意味があるんだ。
たぶんだけど昔の自分は、写真模写ってぱっと見で目を惹くし上手く見えやすいから「そんなの大して上手くないのにチヤホヤされて面白くない! 私の方がオリジナリティが高いのに! 本当に絵が上手いのは私なのに!」みたいに感じて意地でも全否定したかったんだと思う。
また、絵をそっくりに描くという作業にリソースが割かれるので、よけいなことを考えなくなって結果的にストレスを忘れる。写経と同じ効能がある。
写真そっくりに模写したものをSNSに投稿していいのか?
自分一人で模写の練習をする分には、どんな写真を使おうが問題はない。
けど、それをSNSに投稿するのって大丈夫なの? という疑問はある。
著作権、肖像権の侵害になる場合もある
他の人が撮影した写真には、
- 著作権(その写真を撮影した人の権利)
- 肖像権(その写真に写っている人の権利)
がある。
それをそっくりコピーして描いてネットに投稿するというのは、他人の権利を侵害することになる。
被写体本人に了承をとって自分で撮った写真ならばどう使おうと自由だけど、そうでない場合は注意しなければならない。
先日も、チョークアーティストの方が他の人が撮影した写真をそのまま自分の作品として描いていたことが騒動になった。国内外の写真家の作品をそのまま模写して自分の作品にしていたとのことで、そこそこ大きな問題になっている。(アメリカは特に権利関係が厳しい。)
人によって考え方はいろいろ
「推しのTwitterに上がっていた写真を、ファンが模写して描く」というくらいなら「応援の気持ちの表れ」としてほとんどの場合お目こぼしされているとは思う。
けど、「お目こぼし」であって権利を侵害していないわけではないし、当然「お目こぼし」しない人だっている。
また、推し本人は「肖像権」についてお目こぼしをしてくれるかもしれないけど、推しの写真を撮ったカメラマンは「著作権」を主張するかもしれないし。
だから自分は写真を模写して描いたイラストをSNSに投稿することはしない。どこまでが許されるかなんて分からないので。
※有償で描くとかグッズにして利益を得るとかは、人それぞれの考え方うんぬんではなく完全にアウト。
模写練習は意味がある、けど権利に注意が必要
模写練習に対して自分が考えるメリットはこんな感じ。
- 正確に入力し正確に出力する訓練になる
- 「自分の思い通りの絵」を描くための近道
- MPがないときの練習方法として有用
- 没頭できてストレス解消になる趣味としてもアリ
特に「正確に入力して正確に出力する」というのは絵の基本として大切な力だと、今の自分は考えている。
ただし、権利問題に対しては常にシビアでありたい。最近はSNSがあるのでつい「上手く描けたー! 人に見せたい!」と反射的に投稿してしまいたくなるけど、他の人の撮影した写真には他の人の権利があり、勝手にそれを「複製」して他人に共有する行為は他の人の権利を侵害することになる。
模写をする場合は自分だけの練習として行うか、加工などの許可された著作権フリーの写真を使うようにしています。