なかなか絵が上手くならないし、誰にも評価してもらえなくて、創作仲間もできない。上手い下手じゃなく性癖で勝負したいけど、それってどうすればいいのか分からない……。
と悩んでいる人向け【上手い下手じゃなく性癖で勝負するって、具体的にどうすればいいのか】という記事。
今はSNSでちょっと検索すれば、絵が上手い人なんて無限にいる。上を見たらキリがない。
こんなツイートをお見かけして「その通りだなあ」と感じた。
プロでさえそう感じているのだから(というか、プロだからこそさらに上の世界をご存知なのだと思う)、一介のインターネットお絵描きマンである我々が"上手さ"で勝負していくのは無謀なんじゃなかろうか。
プロだって単に絵の上手い下手だけではなく、その人にしか描けないもの、その人の強く愛してこだわっているものを貫いているからこそ、たくさんの人に刺さっていくわけだと思う。
他人の絵を見るときも、上手い下手よりも描く人のこだわりが、自分のど真ん中を貫いてくるような絵に強く惹かれたりする。
つまり"性癖"で勝負していくことになるのではないか。
「それはなんとなく分かるよ、でもそんな性癖に刺さるような絵っていうのをどうやって描けば良いのか分からないんだよ」
この記事では、
- 性癖ってなんなのか
- 性癖で勝負するって、具体的にどうしたらいいのか
- 性癖を貫くと絵も上手くなる話
について考えてみた。
まず、【性癖】は不健全な意味の言葉ではない
性癖って言うと「私は全年齢対象の健全な絵しか描かないので!! そんな下品なことは関係ありません!!」と思ってしまう人もいるかもしれないけど、何も不健全な意味に限った言葉ではない。
性癖(せいへき)とは、人間の心理・行動上に現出する癖や偏り、嗜好、傾向、性格のことである。近年は性的嗜好・性的指向を指す文脈で使われる場合が多い。
その人のパーソナリティに根ざし、生活スタイルを方向づけるような行動傾向を指して用いられるのが本来の用法である。
Wikipedia 【性癖】
セクシーな意味が付与されたのは近年のことであって、そもそもは「その人がどんな性格で、何を好み、ときにこだわり、それによってどんなふうに行動を起こすか」みたいなことが【性癖】なのだそうだ。
絵を描くことで言えば"自分の中のもの、自分の好きなものを描く"ひいては"自分の読みたいものを自分で描く"ということになると思う。
「自分の好きなものを描く、自分が読みたいものを描く」。こうすると言い古された言葉になってしまうけど、これがつまり【性癖】であり、絵描きの根源なのかもしれない。
「自分が描きたいもの」って本当はなんだろう?
「自分の好きなものを描こう! 自分が読みたいものを描こう!」と言うと、途端にボヤッとしてあいまいな、きれいごとになってしまう気がする。それが分からないから悩んでるんだよ……という人もいるだろう。
自分も幼稚園の頃、お絵描きの時間に「好きなものを描きましょう」と言われて途方に暮れたことがある。こざかしい幼児だったからそのときはお花とかウサギさんを描いてしのいだけど、あれも別に性癖に突き動かされて描いたわけではない。「大人が考える"5歳女児が描きそうなモチーフ"」を描いただけで、言ってみれば期待に応えるために思いつける範囲でいい感じのモチーフを選んで描いただけ、だった。
大人になっても、無意識でまわりの期待するもの(つまり、評価されやすいもの・ウケそうなもの)を狙ってしまい、「自分が本当に描きたいもの」が分からなくなった時期があった。今も、仕事でも趣味の同人でもたびたびある。趣味のイラストをTwitterに投稿するときでも、まわりの反応を窺う心がチラッとよぎる。
最近では「はいはい、まわりのことは置いといて自分の描きたいものを優先させようね」と自分の中の「意識さん」が我に返してくれるけど、この「意識さん」がいなければまわりの反応に振り回されて、あっという間に自分を見失ってしまう。
私のまわりの絵描きの【性癖】
自分のまわりには絵うまな人がたくさんいて、その人たちはそれぞれに【性癖】と言えるものを持っている。意識的に、大切にしているのだと思う。
たとえばこんな感じ。
「マッチョなキャラが好き。筋肉ってガッチガチだと誤解されるけど、いい筋肉は柔らかいんです! だからいかに筋肉をふっくら描くかなんですよ……。ふっくら柔らかいみっちりした表現を一生追い求めたい、まだできる、筋肉ってもっとふっくら描けるはず……!」
「(二次創作で)この二人が両片思いからお互いの気持ちに気づくまでのことを何通りも何度でも何パターンでも描きたい。あらゆる世界線で出会って恋に落ちてほしい。」
「推しの眉毛が好き。眉頭と眉中と眉尻は流れが違うから色みも微妙に変えます。まなざしよりも眉毛の流れに色気を込めたい……。だって眉毛の一本一本に推しのDNAがあるなんてどんな神秘ですか??? 今の私になら推しのDNAすらも見える気がする、DNAすら絵に描ける気がする。眉毛ってね、そういうパーツなんですよ……」
「推しキャラの装備、資料を見るに首元と手袋と胸当ては全部違う質感だと思うんだよね。ということは革が違う。これってあの世界ではどんな家畜を飼って、どんなふうに利用していたかってことを想像できるよね……革の描きわけを表現する=作品の世界を表現するってことになるじゃない?」(ちなみに幻水のフリック)
たぶん彼らは「何を描いたらいいねが増えるか」とか「どう描いたらジャンルでウケるか」とかは考えていないと思う。ゼロじゃないだろうけど、眉毛や革や筋肉への想いのほうが強すぎて勝ってしまうという感じなのでは。そしてみんな絵が上手い。
「自分の【性癖】が分からない……」という場合
「そうかなるほど、そういうことが性癖なのか! 私にもあるぞ!」という人は、それを追求する旅に出ることができる。
でも「自分にはそういうのって無いかも。うーん、自分の【性癖】ってなんだろう……?」という人もたくさんいるんじゃないかと思う。
昔の私のように、まわりの評価や反応を気にしているうちに自分の描きたいものを見失ってしまってそれっきり……という人もいるかもしれない。
自分の性癖を見つける、または取り戻すにはどうしたらいいのだろうか。
「自分フィルター」を過信しないようにしてみた
この世界には、コミック、映画、アニメ、写真、絵画、建築、ハンドクラフトや雑貨、植物、風景、それはもうありとあらゆる性癖の詰まった宝箱がある。
それをひっくり返して「自分の性癖はどれだ!?」と探そうと思うと大変だしキリがないし、また最初から自分フィルターがかかってしまうと、却って見つかりにくくなる気がする。
これは自分の場合なのだけど、「私はこういうの好きだから多分楽しめそう」というものよりも、観る前には「んー、これは自分の性癖外れてるからあんまりハマらないと思うなー」と思っていた作品のほうが沼が深かったりする。
自分フィルターって、要するに自分のココロをアタマで判断しちゃっているということなんじゃないか。
だからなるべく自分フィルターで事前に却下してしまわずに、「上から順番に全部観る」「勧められたら素直にとりあえず観る」というのをやってみている。(アマプラなどで)
自分は理屈っぽいから、これは本当に意識していないとついつい自分フィルター(理屈)を発動させてしまう。
【性癖】が結晶化していくのをゆっくりと待ってみた
以前の自分は早く自分というものを確立したくて焦っていたせいか、「私は○○が好き! 私は○○フェチです! だからいっぱい描くんだ!」みたいに自他ともに言い聞かせて無理に思い込もうとしていたフシがあった。
すると当然、だんだん本心からズレていって描くのが楽しくなくなる。「これは好きだと思ったはずなのにやる気が出ない……」という経験をくりかえしていくと「自分は何を描いてもダメなんじゃないか……」みたいになってきてよろしくなかった。
いいかげん懲りたので、今は無理に思い込もうとするとかではなく、ゆっくりと結晶化していくのを、自然に成り行きに任せて待ってみている。
【性癖】ってそんなにとってつけたみたいなことではなくて、たくさんのものを見聞きして消化して、それの繰り返しでゆっくりと結晶化していくものだと、今は思う。
人の反応に振り回されない練習をしてみる
幼稚園のときに「好きなものを描きましょう」と言われて、たいして好きでもないお花を描いたときの、初めて自分を裏切ったような感覚は今でも覚えている。
アレを繰り返すことで、自分の本当の「好き」を見失っていくのだと思う。
それって、お絵描き以外にも失うものがあるのでは……?
だから人の反応に振り回されない練習として、わざと、
- 思いついたものをそのまま描く
- ウケがいい絵柄ではなく、自分の描きたい絵柄で描く
みたいなことをやってみている。
「いいねがつかなかったらどうしよう……」と怖く感じてしまう人は、むしろ「誰にも届かないスキマ産業を目指すぞ!」と考えると怖くないかもしれないです。そして自分は、反応が少なかったら「へへっ……だろ! でも俺はこれが描きたかったんだ(とくいげに人差し指で鼻の下をこすってニヤニヤする)」みたいにしていた。すると行動に気持ちが引っ張られてきて、開き直れてきた。
そうこうしているうちに自分の「描きたい」という感覚を思い出せたりしました。
ちょっとアホっぽいけど、気持ちって振る舞いに引っ張られてけっこう変わるので、どうしても怖い人は試してみてください……。
【性癖】を見つけると自然に画力も上がっていくのでは
【性癖】つまり「私はこれを愛している。これを絵にして伝えたい」というものがあると、「そのためには、私にはこの技術が足りないぞ」ということがはっきりしてくる。
たとえば「リーマンパロが大好きでどのジャンルでも描き続けているけど、いまいちスーツの構造がわかってないからいつもごまかして描いちゃうんだよな、なんとなくは描けるんだけど……。でももっと自分の性癖に寄り添うようなスーツを描きたいぞ! 何より自分が読みたい!」みたいなことが起こってくる。
そうするともう性癖に駆り立てられちゃってるから、
描かないと死んじゃうくらい取り憑かれてる状態だから、
「描けない……」「どうせ……」「センスが……」とか言ってる暇もなく、先に体が動いてしまう。
手が勝手に動いてAmazonでスーツのポーズ集をポチってしまい、手が勝手に練習してしまう……あ、このシワ描くと一気にスーツっぽい〜! 自分で描いといて自分の性癖にギューン!! 自給自足! いい……! もっともっとスーツを上手く描きたいぞ……! みたいな現象が起きる。こうなると、自動じゃないけど自動で描きまくってしまう。
結果として画力が上がらないわけがない。
しかも本人は性癖バフがかかってるから、常にステータスキラキラ状態で疲れもなく、効率よく、テンション高く、機嫌良く、描き続けることができる。
そのループに入ってしまえば自動で画力アップしていくことになる。(自動じゃないけど、自分で描いてるんだけど、実質自動)
「これが描きたい!」と思ったときに探せば今はたいていのものは描き方本が出ているので、捗ります。
「自分の描きたいもの」には一生のうち何度か、必ず出会える
「描きたいものはいくつかあるけど、そこまでな感じじゃないな……」
「好きなものはあるんだけど、描けないから……」
という場合、それはまだ【性癖】と言えるものではないのかもしれない。孵る前のタマゴ状態なのかもしれないし、自分フィルターによる思い込みなだけで、まったく見当外れなのかもしれない。
そこで性癖バフが発動していないのに無理矢理「私は○○が性癖だからこれをがんばるんだ!」と思おうとすると空回りして疲れてしまい、よろしくない。
インプットを続けていれば誰しも何かのタイミングで「どうしても描きたい!!」に出会ってしまうと思う。(ある程度同人活動などをしている人なら、「あの時の自分は何だったんだ……? おかしくなっていたな」というくらい自動で描きまくった経験があるのでは。)
逆に今「何を描きたいか分からない」「何を描いても上手く描けなくていやになり、中途半端で諦めちゃう」という感じなら、性癖バフが切れているのかも。と考えられる。
そういうときはもう一度「描きたい!!」に出会うために、【性癖に出会う旅〜とにかくなんでも吸収していくキャンペーン〜】を開催することにしています。