「動きのある絵が描けないな…どうやったら描けるようになるんだろう?」
「動きがある絵ってどういうこと? 私はアクション描きたいわけじゃないんだよな……」
という人向け、【「動きのあるイラスト」って具体的になんなのか、「動きのある絵を描くためにはどんな練習方法があるのか】について考えてみた記事。
自分は長らく「動きがある絵」が描けないことがコンプレックスで、美術の指導教諭からもよく「また死んでる」と言われていた。
同人活動をしていた頃も、ポーズ集を買ってみたり、クロッキーをやったり、描いたことのないみょうちくりんなポーズを描いてみたりしたけど、やっぱり死んだままだった。
自分の絵のなにが「死んでる」のか。じっくり向き合ってみたところ、
- キャラがなにを考えているか分からないし、
- キャラがなにをしている途中なのか分からないし、
- 物語が見えてこない
ということなんじゃないかなと思ったので、
「動きのあるイラスト」というのはつまり、
- キャラがなにを考えているかが分かり、
- キャラがなにをしている途中なのかが分かり、
- 物語が見えるようなイラスト
ということなのではないか。
と思ったので、それについて書いていく。
「動きのあるイラスト」ってどういうことなのか
「動きのある絵」ってばくぜんとしていまいちつかみどころがない言葉だけど、英語にしてみるとちょっとわかりやすくなった。
acrobatic(曲芸的な)
athletic(運動競技の)
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vivid(躍動的な)
lifelike(生きているような)
上の二つはいわゆる文字通りのアクション的なもので、下の二つはまた別の要素になると思う。
スポーツシーンやアクションのイラスト(acrobatic、athletic)
まずacrobatic(曲芸的な)やathletic(運動競技の)というのは、スポーツや戦闘、殺陣など、いわゆるアクションを描写すること。
自分も、スポーツアニメや戦闘ものにハマったものの、どう描いたらいいのか全然分からなくて二次創作を放棄した経験がある。そういうときに出会ったのが「たてなか流」だった。
スポーツアニメの作画監督を多くされている立中順平さんは、「クイックスケッチ」という手法を提案しており、「絵を描く楽しさというのは、キャラの動きを描くこと」というその考え方に感銘を受けたし、救われたりもした。
スポーツアニメにハマっていた頃、『スーパースポーツデッサン』に本当にお世話になりました。
自分が取り入れている「クイックスケッチ」の手法としては、
- 動いているモデルを見て描く
- 動きの途中で止まってもらって描く
- スポーツの動画などを一時停止して描く
つまり「動きの途中の一瞬を切り取って描く」ことで、前後の動きも込みで見えてくるような絵になる。
何をしている途中なのかが分かるイラスト(vivid、lifelike)
下二つの要素であるvivid(躍動的な)とlifelike(生きているような)は、スポーツシーンや戦闘シーン以外にもある。
- その人物が何をしている途中なのかが分かる
- その人物がどんな感情なのかが分かる
「くしゃみが出そうな瀬戸際の危うい状態でティッシュに手を伸ばしている」とか「マリオカートやっててカーブの時にちょっと体まで傾いている」とか、ポーズ自体はなんてことないし動きも小さいけど、その人物がどんな状態で(どんな感情で)何をしようとしているのかが見ている人に伝わる、みたいなこと。
逆に、ポーズや動きがでかくても、見ている人に何も伝わらない絵というのもある。
たとえばクロッキーモデルは単に「みょうちくりんなポーズをきめている人」であって、何をしている途中なのかもどういう気持ち・意図があるのかもわからない。こういうみょうちくりんなポーズを描くのはクロッキー練習(人体の動きを書き留める練習)にはなるものの、それ以上でも以下でもない、ということになる。
ちなみにこれはクロッキーモデルの動画集です。
前後が想像できるイラスト
「動き」というのはその一瞬だけじゃなく、もっと長い一連のシーンの場合もあると思う。
前後の文脈が想像できる(物語が見えてくる)ようなイラストも、長いスパンでの「動き」なのではないか。
たとえば「ソファで寝転がって本を読んでいる女の子」みたいなありきたりなモチーフひとつでも、
"その女の子が本に夢中になっていて窓の外が暗くなっている"とかなら、目を近づけて読みながら、無意識で爪を噛んでいたり髪を触っていたりするかもしれない。
"その女の子が誰かを待っていて暇つぶしに本を読んでいる"とかなら、ページをめくるのもおざなりで、片手にスマホを持っていじっているかもしれない。
"実はその女の子は遠い未来から来ていて、自分の時代に帰る方法を探すために必死で科学の本を読んでいる"という描写もできるかもしれない。
これも広い意味で「動きのあるイラスト」だと言えるのではないか。
いわゆる「テーマがあるイラスト」だとも言えると思う。
そのキャラの性格が見えてくるようなイラスト
同じメガネをかけている女の子でも、真面目できちんとしている子もいれば元気なキャラがメガネをかけているからこそ良いみたいな子もいる。
そのキャラがどんな性格なのかが見えてくるポーズも、情報量が多くてある意味「動きがある絵」と言えそう。
物語があるイラストは、言葉でも説明できる
何となく行き当たりばったりでみょうちくりんなポーズのイラストを描いて、何となく形になったからといざ投稿しようとするとキャプションに困る、みたいなことが自分はすごく多かった。
これって自分にも物語が見えていなくて、何となく行き当たりばったりで適当に描いて、偶然仕上がったり仕上がらなかったりしているだけ。そりゃあ「動き」もへったくれもないし上達もしないよな、と気づいた。
「動きがあるイラストが描けているかどうか」の一つのチェック方法としては、「このキャラが何を考えて何をしようとしている途中なのか」を説明できるかどうか、みたいなことをチェックしてみるようにしている。
たぶんだけど、物語のある絵を描く人の頭には、描く前に細かく物語ができている。(無意識レベルの人もいると思うのでそこらへんはまた難しいけど)
「女の子と猫が並んで座っている絵」(単なるモチーフ)
とかではなく、
「戦禍に生きる孤独な女の子と唯一の相棒である猫。少女はやっと見つけたパンにかじりつきながらも周囲を警戒するきつい目をしている。猫は分け与えられたパンに口をつけず、少女を見守っている」(物語・動き・テーマのある絵)
それくらい物語が固まっていれば、衣服や顔つきもはっきりと頭の中にできあがっているし、指先のニュアンスひとつ、猫の背中の表情ひとつにもそれが表れ、見る人にビシビシと「この絵の意図」を伝えてくるのだと思う。
動きのあるイラストを練習するには
「動きのあるイラスト」を描くにはどう練習したらいいのか。
あれこれ悩んで試してきた自分にとっては、上に挙げたクイックスケッチはたいへん役に立ったと感じるし、何より絵を描くことが楽しかった。
「え〜、そういう小難しいこと無しで! 大して練習せずに動きがあるっぽい絵を今すぐそれっぽく描きたい!」という初心者の場合、『最速でなんでも描けるようになるキャラ作画の技術』が参考になるかもしれません。
すでにアニメーターによって現実(三次元)がアニメ絵(二次元)に落とし込まれているので、それを見て真似して描くだけで「それっぽい、動きがあるっぽい絵」が今すぐに描ける。
アニメーターは言うまでもなく「動きをそれっぽく見せる」のプロであるから。
じっくり模写していくと、指の向きだったり服のシワだったり、作例を描いているご本人も無意識で描いているかもしれないくらいの「それっぽさ」のエッセンスがあちこちに見つかる。再度模写することで、ちょっと前には気づかなかったエッセンスに新たに気づいたりすることもあった。
あくまでも自分の感覚としてはだけど、3Dモデルにポーズを付けさせてトレースして描くよりも「動きがあるっぽい絵」が描けると感じました。
「見て真似して描くだけってズルじゃない? 上手くならないんじゃない?」と感じる人もいるかもしれないけど、「自分にも動いているキャラが描けている!」という喜びは、とっかかりとして大いにアリなのではないか。
そこをとっかかりに、もっと自分に欲しい部分が見つかればその時にまた別の練習をしていけばいいのだし、気が済んだらそこで満足してやめてもいいのだし。
アクションだけじゃない「動き」のある絵を描いていきたい
acrobatic(曲芸的な)やathletic(運動競技の)な部分は練習のやり方や手法、練習量に依るところが大きい。
けど、vivid(躍動的な)とlifelike(生きているような)のような要素は、「絵に対してどれだけ想像できるか、どれだけ熱量を持てるか」みたいなものも絡んでくる。
その分、誰もがすぐに取り掛かれて、楽しく伸ばしやすい部分なのかもしれないなと思っています。