デッサンとクロッキーって、どっちが大事なの?効率よく絵が上手くなるためには、デッサンとクロッキーどっちからやるべき?
と悩んでいる初心者の絵描きさん向け【デッサンとクロッキーの違いについてと、それぞれ何のためにやるのかについて。全く違う練習なので両方やると効率がいいと思います】という記事。
ある程度絵を描いてきた人にとっては「デッサンとクロッキーの違いなんて説明されるまでもないわ」という感じだと思う。
ただ初心者の人の中には「鉛筆でシャシャッと描いたら全部デッサンでしょ?」「デッサンとクロッキーってどう違うの?」「じゃあどっちをやればいいの?」という人も少なくなさそうなので、一応こんな記事を書いています。
デッサンって何のためにやるの?
まず、デッサンとは何か
デッサンというのは以前からあやふやな言葉ではあるんだけど、最近ではメジャーな言葉になりすぎて意味が一層あやふやになってきている。「デッサン=鉛筆でシャシャッと描くこと」とか「多線ぎみのラクガキ」と思っている人も多い気がする。
たしかにそもそもは"下絵"とか"素描"という意味なので、作品として仕上げる作品以外は全部デッサンと言ったところで間違いではない。
ただ、自分が美大受験のためにやっていた頃の【デッサン】は、「三次元のモノの形を、二次元(紙の上)に変換して描き取る訓練」みたいな目的で行っていた。
たとえば人間の鼻というのは複雑な立体で「こんな立体を平面に描き起こすのなんて無理じゃない?」となるけど、その無理難題を平面に変換することが、絵を描くということ。
そういった、三次元に存在する物体をうまいこと線なり陰なりで整理して、二次元に変換して表現する過程を【デッサン】と言っていた。
※なので、正確には写真を見て描くのはデッサンではない。写真はもう二次元だから。
デッサンは絵を描く上での根源的なもの
絵画だろうがマンガだろうがアニメだろうが、現実(三次元)を平面の紙の上(二次元)で表現せねばならない。
つまり、全ての絵は三次元を二次元に変換したもの。どんな絵を描く場合でも、三次元を二次元に変換しなければならない。
絵を描いているとしばしば「これを絵にするの難しいな……」みたいなことがあるので、そういった「絵にするの難しいな……」を少なくするために、三次元を二次元に変換する練習、つまりデッサンをする。
だから、「これを絵にするの難しいな……」にぶち当たったときにデッサンをやる必要が生じてくる。実際、美術の指導教諭は一人一人の様子を見て必要だと感じたタイミングで適宜デッサンをさせたりしていた。
デッサンを練習することは、絵を描く上で根源的なものだと言える。
クロッキーって何のためにやるの?
まず、クロッキーとは何か
自分は「じゃあ今日はクロッキーをやりましょう」みたいに言われてじっくり取り組んだ記憶はないのだけど、自分のやった限りでは、クロッキーというのは「すばやく形を取る練習」だった。
クロッキーも、絵を描く上で根源的なもの
絵を描くというのは「見たものの形を紙の上に写しとる」行為なのだから、見たものの形をすばやく紙の上に写しとる練習は必要になる。
なぜ「すばやく」なのか。
これはあくまでも自分の感覚だけど、クロッキーというのは「描く」練習というより「とらえる」練習、シャッターを押す練習みたいなもので、紙の上に描くのはおまけみたいなものだと考えている。(もちろん、せっかくとらえたものを紙の上に描けないのでは意味がないので、描く。)
だから敢えて短い時間を区切って「すばやく」とらえる訓練をする。
そのあたりを勘違いして「そんな短時間で納得いくものが描けるわけない。クロッキーはやっても無駄!」みたいに思ってしまう人もいるのかも。
そうじゃなくて、納得いくものを描く練習ではなくて、「ここ!」というところでシャッターを押す練習(+それを紙に写し取る)ということだと自分は考えています。
実際、学生の頃「今日はクロッキーをやりましょう!」と言われてやった記憶はないけど、普段から数分の空き時間で目に入ったものをクロッキー帳に写しとることは日常的にやっていた。半分無意識のラクガキ感覚で。
今思うとあれは全部クロッキーだった。
ストップウォッチで計りながら「では2分です! よーい、はじめ!」で必死になって描くとかは、たしかに苦手意識も強くなりそうだし、自分はそんなことやらされなくてよかったなと思っている。
デッサンとクロッキーは目的が違うから、両方やる
デッサンとクロッキーでは目的が違うので「どっちをやればいいか」というものではなく、「今、自分の得たいほうをやる」という感じ。
デッサンとクロッキーの違いを、たとえば三次元の推しを描く場合を例として挙げてみると、
- 「推しの顔の造形、素敵だから見て……唇の端がクルンとして、この、ほら、ここがいいんですよ」ということを伝えるために描く力を得たいならデッサン
- 「推しがこんな動きしてたのかわいかったんだよ、こうしてこう……そのときの手がこう……ああもう、絵に描くわ!」ということを伝えるために描く力を得たいならクロッキー
みたいな感じ?
多分だけど、絵を描きたい人ってどっちか一つだけというものではないと思う。どっちの要素も描きたいし、必要になる。
なので、今日はこっち、とか、今はこっち、みたいな感じで、自分が今表現したいことに合わせてどちらもやっていくことができる。
どっちもやらなくて済む方法
絵は描きたい、しかし三次元を二次元に写しとる練習(デッサン)も一瞬の形をとらえる練習(クロッキー)もどっちもやりたくない、という人もいるだろう。
そういう場合、デッサンやクロッキーの要素を内包しつつアニメ絵で練習できる、アニメーターの方の書籍を模写練習してみるのがいいのではないかと思う。
なぜかと言うと、
- すでに三次元を二次元に変換してくれているので真似すればいい(つまり、デッサン練習をしなくていい)
- それっぽい動きのバリエーションを実際に描いてみせてくれているので真似すればいい(つまり、クロッキー練習をしなくていい)
『アニメ私塾流 最速でなんでも描けるようになるキャラ作画の技術』は、そういった人のために手っ取り早く真似して描けるような定石をたくさん描いてみせてくれている書籍だと思う。
アニメーターの書籍では、他には自分は立中順平氏の絵柄が好みなので『スーパースポーツデッサン』と『たてなか流クイックスケッチ』にたいへんお世話になった。
こちらは手っ取り早く真似して描くという感じではなく、アニメーターの形のとらえ方を追体験できて時間をかけて真似をしていける書籍だと思う。
「絵を描きたいけどデッサンもクロッキーもつまらないしやりたくない!」というのもとても分かるので、そういう人のとっかかりとしてはとてもいいように感じた。
まずは絵を描く喜びを感じ、もしもそこから「もっとこんなふうに描いてみたい」というのが出てきたらデッサンなりクロッキーをやってみることもできる。そのときには自分の意図がはっきりしているので、意欲を持ってデッサンやクロッキーを楽しめると思う。