なんだか私、絵が下手になった・描けなくなった気がする……!?画力が落ちたのかな?
漫画家って連載を続けていると画力が落ちることがあるけど、どうしてなんだろう?一度ついた画力が落ちることってあるのかな?
と疑問に感じている人向け、【絵が下手になるのは、画力が落ちたのではなくて単に脳のバグりなのでは?】という記事。
たとえば自転車は、一度乗れるようになると乗れなくなるってことはまずない。
でも絵はなぜか「下手になった!」と感じることがある。
いわゆる「画力が落ちる」「劣化する」というやつ。
たしかに、しばらくブランクがあったりすると勘が鈍る、みたいな感覚は自分も経験したことがある。思うように手指が運ばない感覚というか、頭と体がチグハグになるというか。(これはしばらく描いていると数分程度でなんとかなることが多い)
しかし毎日描いていても、何か変わったことをしたわけではなくても「あれっ、私、絵が下手になった……!? 画力が落ちてる!?」と感じることがある。
自分もある程度の年月絵を描いてきてみて、これは「練習を休んだから」ではなくて他に原因・理由があるのでは? と思うようになった。
しばらく描かないでいると「身体感覚のズレ」が起こる
当たり前だけど、しばらく描かないでいると勘を取り戻すのに時間がかかる。「画力が落ちる」というのとはまた別で、これはジョギングを数日休んだら体がついてこないとか、久しぶりに歌ったら声が出ないのと同じで、単に身体感覚のズレの問題なのではないかと思う。
「久しぶりに描いたら指先が上手く動かず、頭で思ったように線が引けない」という経験は誰しも覚えがあるのでは。
そういうとき自分は絵うまの友人がやっているのを真似して、絵を描く前にキャンバスのすみっこにマルや直線、渦巻きを描いてみることもある。頭と体がつながってるかな? と自分に感覚をチェックする感じ。
3日ぶりにジョギングする場合はちょっと気をつけて入念にストレッチや準備運動をするのと同じで、特別なことではない。絵を描くのも、同じく体を使ってすることなのだから。
毎日描いていても「脳のバグり」が起こる
では毎日絵を描いていれば安心なのかというと、そうでもない。
毎日描いていても、毎日毎日同じことの繰り返しだと脳がバグってくることがある。
趣味でぬいぐるみを作って自分のネットショップで販売していた人がいたのだけど、人気が出て注文が殺到し、毎日毎日たくさんのぬいぐるみを作るようになった。その結果、ぬいぐるみの顔がどんどん作画崩壊していったのだ。
毎日同じことを繰り返していると、脳がバグるというか、自分の作るものに対して自覚的でいられなくなるのだと思う。これは自分も人ごとではなく、感覚としてよく分かる。
心理学で言う【馴化(じゅんか)】という概念だそうだけど、同じ刺激に慣れてしまうと反応が起こりにくくなる。
高速道路をずっと走っているとだんだん頭がぼーっとしてきてしまうあの感覚や、電車に揺られていると眠くなってきてしまうあの感覚もそう。頭にモヤがかかってくるような。
漫画家でも、売れっ子で連載を抱えている人ほど「あれ? どんどん絵が変になるけど大丈夫……?」みたいなことがまれに起こるけど、あれも毎週毎週、感じたり考えたりする余裕もなく同じような作業の繰り返しをしていると陥る現象なのではないか。
「画力が落ちた」とか「劣化した」とか言われてしまうけど、正確には「同じ作業の連続で脳のバグりが起こっている」ということなのかもしれない。
だから「絵が下手になってしまった!」「絵が突然描けなくなってしまった!」というときは焦って力技でどうにかしようとせず、逆に休んで別のことをして、脳のバグりを解消するという対策ができる。
脳のバグりを防ぐ絵の描き方を考えてみた
脳がバグってからだと作画崩壊をやらかしたりそれの直しが発生したりといろいろ面倒なので、最近は「脳のバグりを防ぐには、日頃どんなふうに絵を描いていけばいいのか」ということを模索している。
いわゆる【馴化】を回避すれば良いわけなのだから、そのためには、
- 慣れる(惰性でできるようになってしまう)まで同じことを続けない
- ときどきリズムを変える
みたいな工夫ができると思う。常に緊張感を持ち続ける……のは難しいので、たまに緊張感を取り入れてシャキッとさせるというか。
電車に揺られていると同じリズムで眠たくなるけど、駅が近くなって減速すると揺れのリズムが変わるので目が覚める(これを【脱馴化】というらしい)、こんな感じの、ちょっとした変化を入れるようにしてみている。
お題などを利用して、たまに違う練習をする
ルーティンも大切かもしれないけど毎日毎日同じことの繰り返しだと慣れてしまうので、思いつきでたまに違う練習をしてみるようになった。
自分の場合はお題をやってみたりすることで、
- 描いたことがないようなモチーフを描くようになった
- 描く過程に変化をつけられる
こんな感じの緊張感がもたらされている。
トレースと模写を並べてみる
トレースも、脳のバグりに気づくためには有用だと感じている。
自分はついつい鼻から口にかけてを長めにとってしまうクセがあるんだけど、これもずっと描いていると目が慣れてしまって気づきにくい。自分でもこのクセには気づいているのだけど、知らないうちにまたやってしまって、下手すると完成しても気づかない。
そこで最近、模写をした後でその隣に並べてトレースをしてみている。
「あれ、模写したつもりなのに全然違うじゃん」みたいなことに気づきやすいし、隣に並べることで、どこがどうズレているのかも分かりやすい。
「自分ではかなりそっくりにかけたと思うのに全然違う〜!」という大ダメージと引き換えに、脳のバグりが解消される。
ツールを変えてみる
自分は普段オールデジタルで描いているので、たまにアナログで描くと感覚が全く変わる。普段と違う緊張感を呼び起こすため、別のお絵描きソフトを使うなどツールを変えてみることもある。
自分の絵に対して自覚的でありたいけれど、なかなか難しい
「画力の劣化」と言われるものは、身体感覚のズレか脳のバグり……だとすると、これは誰にでも起こる。
どれだけ絵が上手かろうが起こる。休みなく勤勉に描き続けても起こる。むしろ真面目に描き続けることで起こりやすくなる、とも言えそう。
作画崩壊はじわじわ進行するので周囲の人も気づきにくいし、たとえ気づいても本人には言いにくいんじゃないだろうか。あとから気付いたり、人に指摘されたときのショックたるや……。
自分の絵に対して自覚的でありたいと思うけど、なかなか難しい。せめて、ちょっとした違和感を抱いたときにはスルーしてゴリ押しせず、少し立ち止まってみるようにはしています。